植林の効果は「場所」次第──最新研究が示す新たな知見
植林が気候変動の緩和につながるかどうかは、植える「本数」ではなく「場所」が重要であることが、スイス連邦工科大学チューリッヒ校のポスドク研究員ノラ・ファーレンバッハ氏らによる新たな研究で明らかになった。同研究は、学術誌「Communications Earth & Environment」に掲載された。
植林の「量」より「場所」の重要性
従来の自然ベースの気候変動対策では、「とにかく多くの木を植えれば冷却効果が得られる」という考え方が主流だった。しかしファーレンバッハ氏は、「その考えは必ずしも正しくない」と指摘する。同氏は、植林が気候変動緩和に与える影響を地球規模で分析し、植林場所の違いが温暖化抑制効果に大きな差をもたらすことを明らかにした。
3つのシナリオで比較──最適な植林場所とは
研究チームは、植林が気候に与える影響を3つのシナリオで比較した。いずれのシナリオも2015年から2070年にかけて植林を行い、2100年までその状態を維持するという条件でモデル化された。
- シナリオ1(9億2600万ヘクタールの植林):主に熱帯・亜熱帯地域に植林。2100年までに地球の平均気温を0.25°C低下させる効果が見込まれた。
- シナリオ2(8億9400万ヘクタールの植林):北半球の温帯・極圏地域にも大規模に植林。効果は0.13°Cの気温低下にとどまった。
- シナリオ3(4億4000万ヘクタールの植林):主に熱帯・亜熱帯地域に戦略的に植林。植林面積は他のシナリオの半分以下だが、0.13°Cの気温低下を達成した。
この結果から、植林の効果は「どこに植えるか」が「どれだけ植えるか」よりも重要であることが示された。
植林が気候に与える「生物地球化学的」と「生物物理学的」な影響
研究チームは、植林が気候に与える影響を「生物地球化学的効果」と「生物物理学的効果」の2つの観点から分析した。
- 生物地球化学的効果:樹木が大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素循環に与える影響。植林によりCO₂が削減されることで、地球温暖化を抑制する効果が期待できる。
- 生物物理学的効果:植林が地表面の特性を変化させることで生じる影響。例えば、雪に覆われた地域に樹木を植えると、地表の反射率(アルベド)が低下し、より多くの太陽光を吸収して地表温度が上昇する。これにより、局所的な気温上昇や風系・海流の変化が引き起こされる。
これらの効果を総合的に考慮することで、植林が地球全体の気候に与える正味の影響(冷却効果か温暖化効果か)を正確に評価できるという。
植林の最適な場所とリスクのある場所
研究チームは、植林が特に効果的な地域として、以下の地域を挙げた。
- 米国東部
- アマゾン熱帯雨林
- コンゴ盆地
- 中国東部
一方で、植林の効果が限定的か、逆に温暖化を加速させる可能性のある地域として、以下の地域が挙げられた。
- 北半球の極圏地域(アラスカ、シベリアなど)
- 米国の大部分の地域
これらの地域では、樹木の植生が地表の反射率を低下させ、局所的な気温上昇を引き起こす可能性があるという。
地球規模の影響──大西洋とインド洋の気温変化
研究チームは、植林が大気循環を介して地球規模の気候に影響を与えることも明らかにした。例えば、大西洋やインド洋の海面温度が変化し、その結果、世界各地の気候パターンに影響を及ぼす可能性があるという。これは、植林が局所的な気候だけでなく、地球全体の気候システムにも影響を与えることを示している。
「植林は、単に二酸化炭素を吸収するだけでなく、地球のエネルギーバランスや気候システム全体に複雑な影響を与える。そのため、植林を実施する際には、場所の選定が極めて重要である」
ノラ・ファーレンバッハ氏(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)
植林戦略の見直しが求められる
この研究結果は、従来の「とにかく多くの木を植えれば良い」という植林戦略に見直しを迫るものだ。気候変動対策として植林を実施する際には、単に植林面積を拡大するのではなく、植林場所の選定に重点を置くことが重要である。特に、熱帯・亜熱帯地域への植林は、気候変動緩和に大きな効果を期待できる一方で、高緯度地域への植林は慎重な検討が必要だ。
今後、各国や国際機関は、この研究結果を踏まえ、より効果的な植林戦略を策定することが求められる。また、植林プロジェクトの実施にあたっては、地元の生態系や気候条件を十分に考慮し、持続可能な形で実施することが不可欠である。