南極のパインアイランド氷河をモデル化した最新研究によると、氷河の流動速度と海面上昇への影響が、従来の予測よりも最大35%過小評価されている可能性が明らかになった。その原因は、氷河流動モデルで使用される粘性パラメータ「n値」の設定にあるという。

氷河の流動モデルは、氷の粘性(流動抵抗)を推定することで成り立っている。氷の粘性は氷河にかかる応力に依存し、その関係を表す数式にはn値(応力指数)が含まれる。これまでの研究では、n値を3と仮定するのが一般的だった。しかし、米国地球物理学連合(AGU)の学術誌AGU Advancesに掲載された最新の研究では、n値を4とすることで、実際の氷河の挙動をより正確に再現できる可能性が示された。

実験とシミュレーションで判明した過小評価の実態

研究チームは、西南極のパインアイランド氷河を対象に、n値4の条件下で100年後の氷河後退と海面上昇への影響をシミュレーションした。その結果、従来のn値3を用いたモデルと比較して、氷河の後退が18%過小評価され、海面上昇への寄与が21%過小評価されることが分かった。さらに、氷河融解が極端に進むシナリオでは、海面上昇への寄与が35%も過小評価されていたという。

この差異は、単なる数値の違いにとどまらず、氷河融解の加速が地球規模の気候変動に与える影響の不確実性を高める要因となる可能性がある。研究者らは、現在の氷床モデルにおいて、n値の設定ミスが他の物理プロセスの誤った解釈につながっている可能性も指摘している。

氷河融解の加速が招く未来への警鐘

今回の研究結果は、氷河の融解が従来の予測よりも速く進行する可能性を示唆しており、海面上昇の将来予測に大きな影響を与えることが懸念される。氷河の流動メカニズムの見直しは、気候変動対策の立案においても重要な視点となるだろう。

研究チームは、「氷河の流動モデルにおけるn値の再評価が、将来の氷河融解と海面上昇の予測精度向上につながる」と結論付けている。今後、さらなる研究が進められることで、地球規模の気候変動予測の信頼性向上が期待される。

研究の概要

  • 研究対象:西南極のパインアイランド氷河
  • シミュレーション期間:100年後の氷河後退(融解シナリオ:中程度・極端)とその後300年間の回復過程
  • 主な発見
    • n値4を用いたモデルでは、氷河後退が18%過小評価、海面上昇寄与が21%過小評価
    • 極端な融解シナリオでは、海面上昇寄与が35%過小評価
    • n値の設定ミスが他の物理プロセスの解釈に影響を与える可能性
  • 発表媒体AGU Advances(米国地球物理学連合)
  • DOI10.1029/2025AV001946

「氷河の流動モデルにおけるn値の見直しは、将来の氷河融解と海面上昇の予測精度向上に不可欠だ。現在のモデルでは、氷河の挙動を過小評価している可能性が高い。」
—研究チーム