米南カリフォルニア大学(USC)のMaja Matarić教授は、ロボット工学の新分野「社会的支援ロボット工学」を2005年に創始したパイオニアだ。同大学のコンピューターサイエンス、神経科学、小児科の教授として、ロボットを活用した個別療法やケアの研究を推進している。

Matarić教授が開発するロボットは、会話、ゲーム、感情応答を通じて、利用者との社会的相互作用を通した支援を提供する。例えば、不安やうつ病を抱える学生に対し、認知行動療法(CBT)を支援する研究も行っている。CBTは、否定的な思考パターンや行動、感情反応の変容を目指す治療法だ。

2025年、Matarić教授は米国の非営利団体MassRoboticsから「ロボティクスメダル」を受賞した。同賞は、ロボット工学分野で活躍する女性研究者を顕彰するもので、ボストンで開催された授賞式でMatarić教授は感極まって涙を流したという。

「これまで数々の受賞をいただき、感謝しています。しかしMassRoboticsのメダルは特別な意味がありました。受賞者の半数以上が知り合いだったからです。会場には笑顔が溢れ、愛に包まれた空間でした」
(Matarić教授)

Matarić教授のルーツは旧ユーゴスラビアのベオグラード。父親はエンジニア、母親は作家という家庭で育った。16歳の時に父親を亡くし、母親と共に米国に移住した。

父親の影響でエンジニアリングへの関心を抱き、叔父(航空宇宙エンジニア)を通じてコンピューターサイエンスに出会った。Matarić教授は「自分をエンジニアだと意識したのはUSCの教員になってから」と語る。若い世代へのメッセージとして、「将来の目標が明確でなくても、一歩踏み出すことが大切」と強調する。

大学時代はカンザス大学でコンピューターサイエンスを専攻。1987年に学士号を取得後、MITのAI研究所(現:CSAIL)に進学した。在学中に Rodney Brooks IEEE Life Fellow(当時)の研究に感銘を受け、彼の研究室に加わった。Brooks氏は反応型・行動ベースのロボットシステムを開発しており、Matarić教授は修士論文を同研究室で執筆した。

現在、Matarić教授の研究室では、自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子どもたちのコミュニケーションスキル向上を目指すプロジェクトも進行中だ。同研究は、米国立科学財団(NSF)の支援を受けている。