暗号資産(仮想通貨)のセキュリティを脅かす量子コンピュータの脅威が、これまで以上に現実味を帯びてきた。独立系研究者のジャン・カルロ・レリ氏が、暗号資産の基盤となる楕円曲線暗号の暗号鍵を、従来の記録を512倍上回る規模で量子攻撃により解読することに成功した。この成果は、ビットコインやイーサリアム、そして2兆6000億ドル規模の暗号資産市場全体のセキュリティに深刻な影響を与える可能性がある。
レリ氏の研究は、2025年9月にスティーブ・ティッペコンニック氏が6ビットの暗号鍵を量子コンピュータで解読した記録を、わずか7カ月で15ビットに拡大。この進展は、量子コンピュータの性能向上とクラウド上で利用可能な量子リソースの拡大を如実に示している。
「この種の攻撃に必要なリソースは着実に減少し、実行可能なハードルは低下し続けている」と、ビットコインの量子脅威に対処するスタートアップ「Project Eleven」のCEO、アンディ・プルーデン氏は語る。同社はレリ氏に対し、研究成果に対する報酬として1ビットコインを授与した。
ビットコインの暗号化アルゴリズムは256ビットの鍵を採用しているが、15ビットから256ビットへのギャップは依然として大きい。しかし、わずか7カ月で512倍の記録更新が達成された事実は、ビットコインの脆弱性が加速度的に高まっていることを示唆している。
チェーンコード・ラボの推計によると、ビットコインの流通量の最大60%、約8000億ドル相当が量子攻撃のリスクにさらされている可能性があるという。
量子脅威が迫る中、ビットコインのセキュリティは崩壊寸前か
量子コンピュータの脅威は、ビットコインのセキュリティだけでなく、ネットワーク全体の構造的な問題にも直結している。米大手鉱業企業が相次いで採掘インフラをAIに移行し、2024年の半減期以降、採掘事業の採算性が悪化したことで、ネットワーク活動は低迷している。さらに、2024年1月に導入されたビットコインETFの影響で取引手数料が減少し、採掘者の収益源がさらに圧迫されている。
「状況は決して良くない。新たな採掘投資を促す好材料は見当たらない」と、採掘業界メディア「Luxor」のCEO、ニック・ハンセン氏は指摘する。「私は懸念度を6〜7と評価している」
ビットコインの量子脅威への対策は、もはや先送りできない段階に来ている。2029年までに量子コンピュータの実用化を目指すグーグルの発表を受け、ウォール街の巨頭であるブラックロックやUBSのCEOも量子脅威を公に警告。ビットコイン開発者コミュニティも、対策の検討を本格化させている。
その中で浮上したのが、量子攻撃に脆弱なコインの凍結案だ。特に、サトシ・ナカモトとされる110万BTCの凍結が議論されているが、実行には技術的・政治的なハードルが高い。
量子時代に向けた暗号アップグレードの必要性
専門家らは、ビットコインが量子耐性暗号への移行を検討すべき時期が迫っていると主張する。しかし、256ビットの暗号鍵からの移行は、ネットワーク全体のアップグレードを伴うため、実現には時間とコストがかかる。現状では、量子コンピュータの脅威が現実化する前に、どのような対策が講じられるのかが焦点となっている。