通勤はかつて、多くの人にとって毎日の苦痛だった。満員電車の座席争い、渋滞、列車の遅延──。誰もが「通勤は嫌だ」と口をそろえていた。しかし、コロナ禍でテレワークが広まり、オフィスに出社する必要がなくなると同時に、もう一つの大切なものが失われたことに気づいた人も少なくない。特に親たちが、その「通勤時間」を密かに懐かしんでいるのだ。
通勤そのものは決して楽しいものではなかった。それでも、仕事が終わって家路につく時間は、唯一の「自分だけの時間」だった。仕事で忙殺されていた日々の中で、通勤は心の余裕を取り戻す貴重な瞬間だったのだ。
通勤がもたらしていた「切り替えの時間」
かつて、多くの人がオフィスで仕事をしていた時代。仕事が終わる頃には、すでに1日の大半が過ぎ去っていた。帰りの電車や車の中で、ようやく深呼吸ができた。窓の外を眺める日もあれば、友人に電話をかけたり、オーディオブックに没頭したり──。誰からも何も求められない、数少ない時間だった。
テレワークのメリットは計り知れない。睡眠時間の確保、柔軟なスケジュール、子どもと過ごす時間の増加──。しかしその一方で、テレワークは私たちから「切り替えの時間」を奪い取った。世界経済フォーラムの研究によると、通勤時間はメンタルヘルスに良い影響を与えるという。仕事から家庭へのスムーズな移行が、ストレスの軽減につながっていたのだ。
「常にオン」の生活が招く疲弊
今では、仕事のミーティングが終わればすぐに夕食の準備、メールへの返信、宿題の手伝い──。その間に休む暇はない。常に「オン」の状態が続き、心身ともに疲弊していく。仕事と家庭の境界線が曖昧になると、回復の時間もなくなり、イライラや燃え尽き症候群につながる。親たちは、わずかな余裕すら失い、さらに追い詰められていくのだ。
「通勤時間」の代わりにできること
通勤時間は、単なる「無駄な時間」ではなかった。私たちの心を整える大切な役割を果たしていたのだ。今、私たちはその時間を取り戻す方法を見つけなければならない。決して難しいことではなく、少しの工夫で実現できる。
- 最後のミーティングが終わったら、10分間外を歩く
- 車の中で10分間、オーディオブックを聴く
- 友人や家族に電話をかける
- 5分間、何もせず外の空気を感じる
- お茶を淹れるが、その間は何もせずに味わう
- シャワーを浴びる(清潔のためではなく、リセットのために)
- 次の部屋に入る前に、数秒間静かに座る
大切なのは、自分自身のための「切り替えの時間」を意識的に作ること。失われたのは通勤時間そのものではなく、誰にも邪魔されない唯一の時間だったのだから。