2005年3月、アメリカで「ウェンディーズのチリに指が混入していた」という衝撃的なニュースが拡散した。しかし、後にその主張が虚偽であることが判明した。多くの人が忘れ去ったこの事件を、映画監督のスティーブン・ヘルスタッドとエド・ベンダはブラックコメディ「チリフィンガー」として蘇らせた。

同作は、女優ジュディ・グリア、ブライアン・クランストン、ジョン・グッドマンらが主演を務め、ウェンディーズの過激なSNS運用で知られる同社との関係にも一筋の不安を抱えながら制作された。ヘルスタッド監督はSXSWでのインタビューで「ウェンディーズのTwitterをからかうなんて、決してしない方がいいと分かっています。私たちの愛情表現です」と語った。

「チリフィンガー」のストーリーとテーマ

「チリフィンガー」の主人公、ジェシカ・リプキ(ジュディ・グリア)は、ウェンディーズのサイドメニューに指が入っていたと主張し、10万ドルの損害賠償を求める訴訟を起こす。この訴訟を受け、修復業のデイヴ(クランストン)が調査を開始。CEOのブレイク(グッドマン)とその娘で後継者のブレイクJr.II(マデリン・ワイズ)の依頼で動く中、リプキの家庭生活にも焦点が当てられる。特に、夫ロン(ショーン・アスティン)との空の巣症候群に悩むリプキの心情が描かれる。

監督のヘルスタッドは「多くの映画では、子育てのステージを新生児期、思春期、結婚時などに焦点を当てます。私たちは、子どもが巣立った直後の、家族の在り方が変わる瞬間にスポットを当てたかったのです」と語る。家族4人から2人へと変わった生活の違い、日常の些細な変化が、リプキの存在意義を揺さぶる。

「レディバード」からの影響と人間ドラマ

ベンダ監督は「制作中、『レディバード』の影響を受けました。グレタ・ガーウィグ監督が描いた、子どもが巣立つ瞬間の親子関係に感銘を受けたのです」と明かす。しかし、同監督は「トーン面では真似できません。彼女の仕事は完璧すぎました」と自覚的に語る。

グリアは「30代の若い男性監督が、空の巣症候群に悩む中年女性の物語を描くなんて、面白いと思いませんか?私はいつも『女性の声をもっと大切にしよう』と言っているのに、こんなに素晴らしいキャラクターをなぜ書けたのか聞いちゃいました」と笑いながら振り返る。自身も空の巣症候群を経験したグリアだからこそ、リプキの心情をリアルに表現できたという。

「子どもが巣立ったその瞬間、私たちの日常は一変します。その変化をどう受け止めるのか。それがこの映画の核心です」
— スティーブン・ヘルスタッド監督

ウェンディーズとの関係性

ウェンディーズのチリ指事件は、2005年の一時的な話題に過ぎなかったが、同社の過激なSNS運用により、今なお記憶に残る存在となっている。監督らは「ウェンディーズのTwitterをからかうようなことはしない」と前置きしつつも、同社のブランド力を活かしたブラックユーモアの演出に挑んだ。

「私たちの愛情表現です」とヘルスタッド監督は語る。ウェンディーズのSNS運用が持つ「攻撃的なトーン」と、映画のブラックコメディ要素が融合することで、新たなエンターテインメントが生まれた。

空の巣症候群と中年期の葛藤

「チリフィンガー」は、単なる実話の再現にとどまらず、中年期の葛藤と再発見を描いた人間ドラマでもある。監督らは「子どもが巣立った後の親の心情」に焦点を当て、家族の在り方の変化をリアルに描写した。

グリアは「この映画を通じて、空の巣症候群という誰もが経験しうる感情を、ユーモアと共に描くことができました。多くの人に共感してもらえる物語になると信じています」と語った。