「議席は割安な投資」:暗号資産億万長者の選挙介入

米国の上院議員選挙は、億万長者にとって「割安な投資」となり得る。2022年のオハイオ州上院選挙では、ピーター・ティールが元部下のJD・バンス議員を1500万ドルの独立系選挙支出で当選させた。その後、ティールの資産は日額1200万ドル以上増加。この「投資効果」を目の当たりにした暗号資産業界の億万長者たちが、2024年も同様の戦略を展開している。

アラバマ州上院選:暗号資産が支援する候補者

アラバマ州は共和党の強固な地盤であり、共和党予備選で勝利した候補が本選挙で勝利する可能性が極めて高い。今年の上院議員選挙では、当初、州司法長官スティーブ・マーシャルが優勢だった。しかし、1月にトランプ前大統領が下院議員バリー・ムーアを支持すると、暗号資産を資金源とする超党派政治行動委員会(スーパーPAC)「Defend American Jobs」が動いた。同団体は2月に500万ドル超を投じてムーア候補を支援する広告を展開。その結果、ムーアは世論調査でマーシャルを逆転し、現在もリードを保っている。

議員への圧力手段としての選挙支出

Defend American Jobsの支出は、議員の政策決定に対する「見せしめ」的な圧力として機能している。同団体の選挙資金は、ほぼ全額が暗号資産スーパーPAC「Fairshake」から拠出されている。Fairshakeは、暗号資産業界に友好的な共和党・民主党双方の候補を支援するため、2024年の選挙で1億3000万ドル以上を投じた。

例えばオハイオ州では、Defend American Jobsが4000万ドル以上を投じて、民主党の重鎮で労働組合擁護派のシェロード・ブラウン上院議員を破り、億万長者の共和党議員バーニー・モレノを当選させた。

Fairshakeの資金源:暗号資産3社が9割を拠出

Fairshakeの資金の大半は、暗号資産取引所のRipple、Coinbase、および暗号資産ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitz(アクセル・パートナーズ)の3社から拠出されている。連邦選挙委員会(FEC)の記録によると、3社は2024年選挙サイクルでそれぞれ9000万ドルから1億ドルをFairshakeに寄付した。Andreessen Horowitzの寄付は、同社創業者のマーク・アンドリーセン氏とベン・ホロウィッツ氏の個人資産から拠出された。

トランプとの関係構築も加速

Fairshakeの主要出資者3社は、いずれもトランプ前大統領との関係構築を急いでいる。Andreessen Horowitzのマーク・アンドリーセン氏は2016年の選挙ではヒラリー・クリントン氏を支持したが、2024年にはペンシルベニア州の集会襲撃事件後、250万ドルをトランプ支援のスーパーPACに寄付した。CoinbaseとRippleは、いずれもトランプのホワイトハウス内の集会場の資金調達に協力している。

「これほどまでに直接的に企業から資金を集め、議員を脅迫(あるいは報酬)するための選挙資金として活用する業界はかつてなかった。暗号資産業界は、議員に対し自らの望む政策を押し付けるための圧力手段として、選挙資金を武器化している」
リック・クレイプール(市民団体Public Citizen調査部長)

暗号資産業界の政治介入の行方

暗号資産業界の選挙介入は、議員の政策決定に対する「見せしめ」的な圧力として機能している。議員たちは、暗号資産業界に敵対的な政策を採れば、数百万ドル規模の選挙資金が反対陣営に投じられるリスクを負うことになる。この構図は、米国の政治における新たな「常態」となりつつある。