最高裁が投票権法を大幅に制限、多様化する米国の選挙制度に波紋
米国最高裁は、選挙権の保護を定めた歴史的な法律を大幅に制限する判決を下した。これは、かつてないほど多様化し、政治権力をめぐる対立が深まる米国にとって、重大な転換点となる。最高裁はルイジアナ州の事例を受け、投票権法第2条のうち、人種差別的な選挙区区割りを禁じた規定を事実上骨抜きにした。
投票権法第2条とは?
第2条は、1965年の制定以来、米国南部の人種差別的な選挙制度を撤廃し、有色人種の選挙権を拡大する原動力となった。特に黒人有権者の保護に大きな役割を果たしてきた。しかし今回の判決により、連邦政府による選挙区再編の監視機能が大幅に弱体化することになる。
米国社会の変化が選挙制度に与える影響
1965年当時、米国の白人人口は約85%を占めていたが、現在では59%まで減少している(米国国勢調査)。その一方で、多民族・多文化社会が急速に拡大。2010年から2020年にかけて、多民族人口は276%増加し、特にラテン系とアジア系の成長が顕著だ。
この人口構造の変化は、テキサス、ジョージア、アリゾナなどの州の政治地図を塗り替えている。また、南部諸州が全米で最も人口成長率の高い地域となり、選挙区再編の政治的重要性が増している。
選挙区再編をめぐる新たな対立
米国南部はかつて、投票権法が最も強力に機能していた地域だった。しかし、今回の判決により、選挙区再編をめぐる議論が再び激化する可能性がある。専門家は、2026年の選挙から2028年にかけて、黒人選挙区の消滅など深刻な影響が出る可能性を指摘している。
「この判決は公民権運動の遺産に対する深い裏切りだ」
ソフィア・リン・ラクイン(ACLU投票権プロジェクトディレクター)
「これは壊滅的な打撃であり、選挙制度を操作しようとする腐敗政治家にとっての免罪符だ」
デリック・ジョンソン(NAACP会長)
一方で、最高裁のサミュエル・アリト裁判官は多数意見で「第2条の解釈が憲法で禁じられた人種差別を助長している」と指摘。これに対し、エレナ・ケイガン裁判官は反対意見で「選挙機会の平等という基本的権利を後退させる」と批判した。
差別の形態が変化、証明の難しさが課題に
1965年の投票差別は、リテラシー試験や人頭税、明確な人種差別的な法律という形で表れていた。しかし現在では、選挙区の区割り、 voter ID 法、投票所へのアクセス、先住民の投票ルール、行政上の障壁など、より複雑な形態に変化している。
選挙分析の専門家、デイビッド・ワッサーマン氏(クック・ポリティカル・レポート)は「この判決が2026年の選挙でどれだけの選挙区に影響を与えるか、数日かけて分析する必要がある。現実的には1〜3議席の変動にとどまるかもしれないが、2028年の南部における黒人選挙区の消滅という最悪のシナリオも否定できない」と指摘する。
今後の展望:州レベルの闘いと選挙の行方
今後は、法律闘争が州裁判所や連邦議会、そして2026年と2028年の選挙にシフトする可能性が高い。ラクイン氏は「有色人種の選挙権は、今後、執行力のある法律ではなく、州議会の善意に依存するようになる」と警告する。
まとめ:1965年に米国の民主主義を再構築した投票権法は、今や時代に合わない古い枠組みとされ、その役割が大きく変わろうとしている。多様化が進む米国社会において、選挙権の保護は新たな段階に入った。