軍事戦略の転換:かつての批判から実用へ
米海軍のサミュエル・パパロ提督は、2026年4月に開催された上院軍事委員会のインド太平洋軍(INDOPACOM)予算審議において、同軍がビットコインノードを運用し、ブロックチェーン技術を軍事ネットワークの安全強化に活用していると明らかにした。
驚くべきは、パパロ提督の発言の変化だ。2024年2月、上院議員エリザベス・ウォーレンとの公聴会で、暗号資産の「透明性の欠如」がテロや違法取引の温床となると批判していた提督だが、現在ではビットコインの暗号技術やプルーフ・オブ・ワーク(PoW)を「ネットワークセキュリティと軍事力の発揮に不可欠な要素」と位置付けている。
わずか2年で、暗号資産に対する見方は「問題」から「解決策」へと完全に転換したのだ。
米国の政策転換が後押し
この軍事戦略の変化は、米国政府の政策転換と密接に関連している。2025年1月23日、ホワイトハウスは「合法的なパブリックブロックチェーンネットワークへのアクセス保護」と「ドル-backedステーブルコインの世界的普及促進」を米国の政策として正式に発表した。これにより、パブリックブロックチェーンが「国家インフラ」として認識され、暗号資産全体に対する「すべてが疑わしい」という包括的な疑念から切り離された。
同年3月6日には、米国政府が「戦略的ビットコインオープン」を設立。ビットコインを金と同様の「国家資産」として管理し、売却を禁止する方針が打ち出された。さらに7月18日には「GENIUS法」が成立し、米国の国家安全保障戦略とドルの基軸通貨としての地位を結びつける法的枠組みが整備された。
2026年4月までに、米財務省はGENIUS法に基づくマネーロンダリング防止(AML)規制の実施案を発表。同時に、デジタル資産関連企業とのサイバーセキュリティ情報共有イニシアチブを開始した。これにより、デジタル資産インフラが「国家の重要インフラ」として位置付けられ、軍事ネットワークと同じ「レジリエンス重視のシステム」として扱われるようになった。
軍事ドクトリンの変化:データ中心のゼロトラストアーキテクチャ
INDOPACOMの2026年予算審議資料によると、同軍は「中国の戦略的目標の阻止」と「情報・意思決定の優位性確保」を最優先課題としている。具体的には、パートナー国とのネットワークに「データ中心のゼロトラストアーキテクチャ」を展開し、C5ISRT(指揮・統制、コンピュータ、通信、サイバー、情報、監視、偵察、標的)システムのレジリエンス強化を図る方針だ。
このアプローチは、軍事ネットワークの耐攻撃性を高めるだけでなく、ブロックチェーン技術の耐改ざん性や分散型コンセンサスメカニズムを活用することで、敵対勢力によるサイバー攻撃や情報操作に対抗することを目指している。
専門家の見解:ビットコインが軍事戦略の鍵に
この軍事戦略の転換は、米空軍のジェイソン・ロウリー大尉(著書『ソフトウォー』で知られる)の研究と無関係ではない。ロウリーは、ビットコインのPoWメカニズムが「国家防衛戦略を根本から変革する可能性」を持つと主張している。
ロウリーによれば、PoWは「計算資源の消費を通じた経済的な抑止力」として機能し、サイバー攻撃のコストを飛躍的に高めることで、敵対勢力に対する抑止力となるという。同氏は、ビットコインの時価総額が2030年までに1兆ドルに達し、長期的には1億ドル規模のポジションを保有する可能性を示唆している。
今後の展望:デジタル資産と国家安全保障の融合
米国における軍事戦略とデジタル資産の融合は、今後ますます加速する見込みだ。軍事ネットワークの安全性向上だけでなく、国家資産としてのビットコインの保有、サイバーセキュリティの強化など、デジタル資産が国家安全保障のあらゆる側面で重要な役割を果たすようになるだろう。
この動きは、中国やロシアなど他国の軍事戦略にも影響を与える可能性があり、グローバルな軍事バランスの変化をもたらすかもしれない。
「かつては暗号資産を脅威と見なしていた軍事指導者が、今ではその技術を国家安全保障の基盤として活用しようとしている。これは単なる技術の転換ではなく、軍事ドクトリンの根本的な変化だ」
– 米国防総省関係者