英国の老舗自動車価格ガイド「Hagerty Price Guide」の編集に携わる筆者にとって、2026年の最新版改訂作業は衝撃的な出来事となった。特に欧州の高級車、とりわけイタリアの名門フェラーリを中心としたモデルの価格が、短期間で急激に上昇したのだ。
オークションにおける記録更新自体は珍しくない。しかし、今回のケースは単なる一時的な高騰ではなく、市場全体に広がる「伝染」のような現象だった。通常、こうした異常な価格上昇は一時的なものに過ぎず、再現性に乏しいとされる。だが、2026年に入ってからは、その常識が通用しない状況が続いている。
フェラーリ「ハロー」カーが次々と記録更新
最初の転機は、2026年1月初旬に開催されたMecum Kissimmeeオークションだった。同オークションの目玉は、故フィル・バックマン氏が収集した45台以上のフェラーリコレクションだった。低走行距離かつ希少仕様のモデルが多く、中でも「ハロー」カーと呼ばれる288GTO、F40、F50、エンツォ、ラフェラーリの5車種すべてが、過去最高額を記録した。Mecum社によると、計19台のフェラーリが新記録を達成したという。
そのわずか1週間後、RM Sotheby’s Arizonaオークションでも同様の現象が起きた。エンツォとF50が、Hagerty Price Guideの最高評価額(コンクール・コンディション)を上回る価格で落札された。ただし、Mecumの記録には及ばなかったものの、市場の熱狂ぶりを示す結果となった。
欧州市場でも記録的高騰が続出
1月末には、欧州市場でも大規模な取引が行われた。RM Sotheby’s Parisでは、走行距離わずか20kmの2004年式エンツォが810万5,000ユーロ(約970万ドル)で落札された。一方、Gooding & Company Christie’sでは、1984年式288GTOが911万7,500ユーロ(約1,090万ドル)、2018年式FXX K Evoが698万ユーロ(約830万ドル)でそれぞれ世界記録を更新した。
パリのディーラーたちは、この異常な価格高騰について様々な見解を示した。中には「Kissimmeeの結果は特定の入札者による一時的な盛り上がりに過ぎない」「一部の取引は成立していない」との声もあった。その一方で、「一時的なブームに過ぎず、 soon prices will drop back(すぐに価格は落ち着く)」との楽観論も聞かれた。しかし、状況は収束するどころか、むしろ拡大の一途をたどっている。
フェラーリ以外のモデルにも波及
フェラーリの「ハロー」カーだけでなく、他のモデルやブランドにも価格高騰の波が広がっている。例えば、フェラーリ・モンツァSP2は実用性よりも希少性が重視されるモデルだが、2025年12月のRM Sotheby’s Abu Dhabiオークションで250万ドルの記録を樹立していた。しかし、わずか3ヶ月後の2026年3月には、Broad Arrowが青いトリムを施した赤の新車を495万5,000ドルで落札。記録はほぼ倍増した。
こうした動きは、単なる投機的なバブルではなく、コレクター市場における「新たな価値基準」の形成を示唆している。業界関係者の間では、この現象が今後も続くのか、それとも一時的な盛り上がりに過ぎないのか、意見が分かれている。
専門家の見解:ファンダメンタルズの変化か?
「これまでの価格高騰は、特定のコレクターによる一時的な需要拡大が主な要因だった。しかし、2026年に入ってからの動きは、単なる投機ではなく、市場のファンダメンタルズが変化している可能性がある。特に、若い世代のコレクターが増加し、新しい価値観が形成されつつある。」
— 自動車コレクター・アナリスト
一方で、懐疑的な見方も根強い。あるディーラーはこう語る。
「一部の取引は、実際には成立していないという情報もある。価格が高騰しているように見えても、実需の裏付けがないケースが少なくない。このままでは、バブル崩壊のリスクも否定できない。」
今後の市場動向に注目
2026年のコレクター市場は、まさに「異常事態」と言える状況にある。フェラーリをはじめとする欧州高級車の価格高騰は、単なる一時的な現象にとどまるのか、それとも新たな時代の到来を告げるものなのか。業界関係者は、今後の動向を注視している。
Hagerty Price Guideの編集チームも、こうした異常な価格変動を踏まえ、評価基準の見直しを迫られている。同社のアナリストは、「これまでの価格ガイドは、あくまで実需に基づく評価だった。しかし、現在の市場では、実需を超えた価値が形成されている可能性がある」と指摘する。
今後、オークション市場がどのように落ち着くのか、あるいはさらに加熱するのか、その行方が注目される。