1969年7月21日、アポロ11号の司令船「コロンビア」で月を周回していたマイケル・コリンズは、歴史的な瞬間を写真に収めた。彼の手にしたハッセルブラッドカメラは、月面に着陸した「イーグル」と、その上空に浮かぶ地球を捉えた。この写真には、当時の地球上に存在した30億人以上の人類すべてが写り込んでいる。しかし、その中にコリンズ自身の姿はなかった。

当時のメディアは「人類にとっての偉大な飛躍」に沸き立っていた。その中で、コリンズは「宇宙で最も孤独な男」と呼ばれた。月面着陸船や地上との交信が途絶えた30分間、彼は完全に一人で、月面の裏側に浮かぶ司令船にいた。その間、ニール・アームストロングの歴史的な第一歩の言葉は聞こえず、静寂だけが支配していた。

しかし、コリンズにとってその孤独は寂しさではなかった。むしろ、宇宙の支配者としての高揚感に満ちていた。後に彼はニューヨーク・タイムズのインタビューでこう語っている。「美しい小さな領域がすべて私のものだった。皇帝であり、船長であり、快適な空間だった。温かいコーヒーさえあった」。

コーヒーは袋から絞り出すタイプで、本人いわく「まずいコーヒー」だったが、少なくとも地球の朝を思い出させてくれる存在だった。打ち上げの1週間前、写真家はコリンズがコーヒーを手に仕事場に向かう様子を撮影した。そこには、彼の愛車であるフォルクスワーゲン・ビートルも写っていた。

宇宙飛行士といえば、コルベットを愛車とするイメージが強い。実際、ガス・グリソムは自分のコルベットのギア比を調整して、砂漠でアラン・シェパードを追い抜こうとした逸話が残っている。ニール・アームストロングも1969年7月の打ち上げ前、マリナブルーのコルベットで現れた。そんな中、コリンズが選んだ愛車はフォルクスワーゲン・ビートルだった。

アポロ11号の3人のクルーのうち、月面に降り立ったのはアームストロングとバズ・オルドリンだけだった。コリンズは司令船で待機し、月を周回していた。コルベットを愛車とする「スーパーマン」たちの中で、ビートルを選んだコリンズの選択は、彼の冷静で控えめな性格を象徴していたのかもしれない。

出典: Hagerty