イーロン・マスク氏率いるスペースXは、AI研究所Anthropicとの提携を発表した。この取引により、マスク氏は二つの目的を達成しようとしている。一つは、来月に控えるスペースXのIPOに向けて未使用のコンピューティングリソースを収益化すること、そしてもう一つは、ライバルであるサム・アルトマン氏のAnthropicに対抗することだ。
この提携は、AI分野における競争が戦略的必要性に迫られ、急速に変化する様子を象徴している。マスク氏はわずか3ヶ月前、Anthropicを「邪悪な存在」と呼び非難していたが、今やビジネスパートナーとして協力関係を築いた。
Anthropicの深刻なコンピューティング不足を解消
この取引は、Anthropicにとって最も喫緊の課題である深刻なコンピューティングリソース不足の解消につながる。AnthropicのCEO、ダリオ・アモディ氏は1月の開発者会議で、2026年の第1四半期における同社の収益と利用率が「年間80倍の成長」を記録したと述べた。これは当初予測の10倍を大幅に上回る数字だ。
アモディ氏は「需要の急増により、コンピューティングリソースが不足し、顧客に利用制限を課す事態に陥っている」と明かした。この状況に対し、スペースXは自社のColossus 1データセンターの全容量(300メガワット以上、22万台以上のNVIDIA GPUに相当)をAnthropicに提供する。このリソースは今月中に引き渡される予定だ。
なお、xAI(マスク氏のAI研究所で、スペースXが買収した)は、引き続きColossus 2と呼ばれる別のスーパーコンピューターで運用される。
スペースXはブログで「この合意の一環として、Anthropicは将来的に複数ギガワット規模の軌道上AIコンピューティング能力の開発に向けた提携にも関心を示している」と述べた。
「敵の敵は味方」:競争の裏にある戦略的思惑
この提携は、マスク氏が共同設立者であるOpenAIを相手取った訴訟の最中に発表された。OpenAIはAnthropicの最大の競合相手でもある。
「マスクの敵はサム(アルトマン氏)。ダリオ(アモディ氏)の敵もサム。敵の敵はコンピューティングパートナーだ」
ベン・ポウルディアン(テック市場調査アナリスト)
マスク氏は2月にAnthropicを公然と批判していた。同社が3800億ドルの企業価値を発表した際、X(旧Twitter)で「misanthropic(人類不信の、反人類的な)」と揶揄した。現在では、Anthropicの企業価値は9000億ドルに達すると見込まれている。
しかし、先週Anthropicの幹部と会談したマスク氏は「感銘を受けた」と述べ、態度を一変させた。
双方にとってのメリット:財務戦略の一環
この提携は、単なる個人的な対立や競争を超えた、双方にとっての合理的な判断でもある。特に、xAIの需要曲線はAnthropicとは大きく異なる。
ピッチブックのハリソン・ロルフェス氏は「マスク氏は製品需要に対して過剰なインフラ投資を行う傾向がある」と指摘する。2024年には、OpenAIがマスク氏の当初計画していたコンピューティングリソースを引き取った事例もあった。
「xAIのColossus 1は、Grokのユーザーベースの成長に見合わない規模の容量を抱えていた」とロルフェス氏は述べる。Anthropicにこの余剰リソースをリースすることで、スペースXは使われていない高額な資産を高利益の収益源に転換できる。これは6月のS-1申請に間に合わせるための戦略的な動きでもある。これにより、スペースXは未使用のチップ容量に関する数十億ドル規模の減損処理を回避し、Anthropicを顧客としてIPOに臨むことが可能になる。
その一方で、マスク氏がAnthropicのような競合AI研究所に余剰リソースを提供するのは、自身も同様の需要不足に悩む場合に限られる。同社は保有する大規模チップのわずか11%しか活用できていないとの報道もあるが、需要不足によるものか、利用率の低さによるものかは明確ではない。
いずれにせよ、Anthropicはキャッシュに余裕があり、スペースXの余剰リソースを有効活用することで、双方にとってWin-Winの関係が構築される見通しだ。