米国で取引されるスポットビットコインETFへの純流入額は、これまでに約597億ドルに達しており、ブラックロックのETF「IBIT」 aloneで667億ドルの資産を保有するに至っている。こうした中、モルガン・スタンレーとチャールズ・シュワブが、顧客の暗号資産取引需要に対応するため、通常の証券口座で直接暗号資産取引を行えるサービスを開始する動きを加速させている。
顧客需要の奪還と収益機会の拡大
両社が暗号資産取引の直接提供に踏み切った背景には、顧客の需要が自社プラットフォーム内に存在するにもかかわらず、取引が外部に流出していたという課題があった。例えば、チャールズ・シュワブの顧客は米国のスポット暗号資産ETP(上場商品)の約20%を保有しており、その取引は主にコインベースやロビンフッドで行われていた。これにより、シュワブは資産運用残高を得る一方で、取引や顧客との関係性は他社に流出していたのだ。
同様に、モルガン・スタンレー傘下のE*Tradeは、860万人のセルフ・ディレクテッド顧客を抱え、2025年には1日平均102万9,000件の取引を実行。これらの顧客が保有する資産総額は1兆6,700億ドルに上る。ETFの登場により、顧客はビットコインへのエクスポージャーを身近な口座で得られるようになった一方で、スポット取引や執行、顧客の囲い込みは外部に流出していた。シュワブの顧客がIBITを保有しながらコインベースでスポットビットコインを取引すれば、顧客の金融活動は二分されることになる。シュワブは資産運用残高を得る一方で、コインベースは取引関係を手にするという構図だ。
規制環境の整備が後押し
両社が暗号資産取引の直接提供に踏み切ったタイミングには、規制環境の整備が大きく寄与している。2025年3月には米連邦預金保険公社(FDIC)が、銀行による暗号資産関連活動に関する事前承認要件を撤廃。同年5月には通貨監督庁(OCC)が、国法銀行による顧客保管暗号資産の売買とリスク管理を伴う執行の外部委託を認める方針を明確化した。さらに2026年4月には、米証券取引委員会(SEC)スタッフが、特定の暗号資産インターフェースに関するブローカー・ディーラー登録の暫定的な見解を発表。これらの規制整備により、銀行や証券会社が暗号資産サービスを提供する際の障壁が大幅に低下した。
また、純粋な暗号資産専門企業の脆弱性も、両社の参入を後押しした。ロビンフッドの2025年第1四半期決算によると、アプリ内の暗号資産取引高は前年同期比48%減の240億ドル、暗号資産関連収益は47%減となっている。暗号資産取引のインフラコストは市場環境にかかわらず固定費であるため、需要が低迷している時期に参入することで、コンプライアンスや価格設定、サービス体制の整備に時間をかけることが可能になった。
長期的なインフラ構築の成果
モルガン・スタンレーのE*Tradeにおける暗号資産取引計画は、2025年9月に始動し、2026年上半期のサービス開始を目指している。この取り組みは、単なる短期的な参入ではなく、数四半期にわたるインフラ整備の集大成だ。同社は暗号資産取引サービスを提供するため、暗号資産取引所Zerohashと提携している。
主な規制・市場動向のタイムライン
- 2025年3月:FDICが銀行による暗号資産関連活動の事前承認要件を撤廃。銀行が暗号資産サービスを提供する際の手続き的障壁が低下。
- 2025年5月:OCCが国法銀行による顧客保管暗号資産の売買とリスク管理を伴う執行の外部委託を認める方針を発表。銀行の暗号資産ビジネスに対する法的・運用面での明確化が進む。
- 2025年7月:スタンダードチャータードが機関投資家向けのスポットビットコイン・イーサリアム取引を開始。大手金融機関が暗号資産のラッパー商品にとどまらず、直接取引に参入する動きが加速。
- 2025年9月:モルガン・スタンレーがE*Tradeにおける暗号資産取引計画を開始。2026年上半期のサービス開始を目指す。
今後の展望と課題
両社の暗号資産取引参入は、顧客需要の奪還と収益機会の拡大を目指す戦略的な動きだ。一方で、暗号資産市場は依然としてボラティリティが高く、規制環境も完全に整備されたわけではない。特に、米国議会における暗号資産関連法案(CLARITY法案)の審議が進展していない点は、業界全体にとっての不確実性要因となっている。
しかし、規制当局の動きや大手金融機関の参入が相次ぐ中、暗号資産市場は従来の専門業者だけでなく、伝統的な金融機関が主導する新たなフェーズに突入しつつある。顧客にとっては、より身近で使いやすい暗号資産取引環境が整備されつつあると言えるだろう。