世界経済秩序の再編が進む中、カナダのマーク・カーニー首相は独自の経済再構築策を発表した。カーニー首相は10月21日、新たな「国家財産基金」として「カナダ・ストロング基金」の創設を発表した。基金の初期資金は250億カナダドル(約1兆8400億円)で、インフラ整備などに充てられる予定だ。

カーニー首相は「カナダが築いてきた秩序が崩れつつある」と述べ、米国との緊密な関係がかつての強みだったが現在は弱みに転じたと指摘。新基金を「国家の貯蓄・投資口座」と位置づけ、ノルウェーの2兆ドル規模の国家財産基金をモデルにするとしている。

しかし、このカナダ版基金は実態が異なる。ノルウェーの基金は石油・ガス収入で賄われ、運用益のみを支出する仕組みで、国内支出は原則禁止されている。一方、カナダ版は借金で資金を調達し、国内企業への投資に直接充てられる計画だ。具体的には、インフラ、先端製造業、エネルギー、鉱業などに「有力なカナダ企業」への資金提供が見込まれている。

「これは国家財産基金ではなく、借金で支える企業支援策にすぎない」と、カナダ納税者連盟のフランチェスコ・テラッツァーノ連邦理事は批判する。「カーニー首相の基金は財産や貯蓄に基づくものではなく、借金で成り立っており、リスクの高い企業への公的資金投入につながる」と指摘する。

政府は具体的な支出先をまだ発表していないが、公的財政への負担増加は避けられない。政府は2026年度に669億ドルの財政赤字を予測しており、連邦債務はすでに1兆2000億ドル(GDP比41.2%)に達している。こうした状況下で、カーニー首相はなおもこの計画を推進している。

テラッツァーノ理事は「政府にはすでに他の支援策がある」と指摘する。政府は既にカナダインフラ銀行、カナダ成長基金、その他数十億ドル規模の補助金制度を運営しているが、いずれも公的資金の無駄遣いの歴史があるという。

例えば、カナダインフラ銀行は2017年に350億ドルの納税者資金で設立されたが、100以上のプロジェクトに着手したものの、完了したのはわずか11件にとどまった。失敗例として、オンタリオ州からペンシルベニア州への高圧送電線建設計画「レイクエリー・コネクター」が挙げられる。同プロジェクトには6億5500万ドルが投じられたが、総事業費17億ドルのうち655万ドルを費やした段階で開発業者が撤退。コスト急増が原因だった。同銀行のピエール・ラヴァレー前CEOは2020年4月に辞任したが、在任中にプロジェクトを1件も完了できなかったにもかかわらず、退職後に高額のボーナスを受け取っていた。

同様に、経済成長と温室効果ガス削減を目指すカナダ成長基金も、実質的には経済効果の乏しいプロジェクトに資金が流用されてきた経緯がある。

出典: Reason