米国の下院議員選挙史上最も費用のかかった選挙戦が、ケンタッキー州第4選挙区で繰り広げられている。共和党のトーマス・マスィー議員(在任20年)と、トランプ前大統領の支援を受けるエド・ガルリン候補の争いは、2560万ドル以上の選挙広告費が投入され、熾烈な攻防が続いている。
マスィー議員は、イスラエルへの批判的立場やトランプ前大統領との距離感から、共和党内でも孤立した存在となっている。一方のガルリン候補は、軍歴を強調し、トランプ路線の忠実な支持者としてアピールしている。
AIを悪用した攻撃広告が飛び交う
この選挙戦の特徴は、AI技術を悪用した攻撃広告の氾濫だ。ガルリン候補を支援するスーパーPACの広告では、AIで生成された映像でマスィー議員がアレクサンドリア・オカシオコルテス議員(民主党、ニューヨーク州)やイルハン・オマル議員(民主党、ミネソタ州)と「三角関係」にあると主張。マスィー議員を「アメリカ第一主義を裏切る者」と非難している。
逆にマスィー議員を支援するグループは、ガルリン候補を「 woke(進歩的)なエディ」と呼び、退役 Navy SEAL であるガルリン候補を「戦場でトランプを見捨てる兵士」として描写したAI広告を放映。双方が相手を「保守的ではない」と攻撃し合っている。
イスラエル支持団体がガルリン候補を支援
マスィー議員は、イスラエルへの批判的な発言で知られ、共和党内でも数少ない反イスラエル派の一人だ。これに対し、イスラエル支持団体の共和党ユダヤ人連盟(RJC)は400万ドルを投じてガルリン候補を支援。米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)のスーパーPAC「United Democracy Project」も260万ドルを投入している。
マスィー議員は、トランプ前大統領との距離を取る発言を繰り返しており、これに反発したMAGA KYなどのトランプ支持団体は560万ドルを投じてマスィー議員の追い落としを図っている。マスィー議員自身も560万ドルの選挙資金を投入し、対抗している。
「LGBTQマフィアに買収された」との攻撃も
選挙戦の過熱ぶりは、さらにエスカレートしている。ガルリン候補を支援する億万長者ポール・シンガー氏(ユダヤ人、LGBTQ+権利活動家)を標的にした広告では、シンガー氏の背景にレインボーカラーのダビデの星が映し出され、「LGBTQマフィアに買収された」と非難。広告は「ガルリンが勝てば、変態どもが支配する」との過激なメッセージで締めくくられている。
この広告を放映しているのはHold The Line PACで、ジョージア州第14選挙区の右派候補コルトン・ムーア氏の支援でも活動していた団体だ。マスィー議員の陣営はコメントを拒否しており、シンガー氏や彼が経営するヘッジファンド「Elliott Management」も沈黙を保っている。
選挙戦の行方
選挙戦は5月19日の予備選挙まであと1週間。マスィー議員は「イスラエル批判」という保守層にとってタブー視される発言を繰り返しており、ガルリン候補は「トランプ路線の忠実な支持者」としてアピール。双方が「より保守的」であることを主張し合う中、有権者の判断が注目される。