イギリス出身のシンガー、ジェシー・ウェアが2020年6月にリリースしたアルバム「ホワッツ・ユア・プレジャー?」は、ディスコとファンクの要素を融合させたアルバムとして、パンデミック下で孤独や触れ合いの喪失に悩む人々に癒しを与えた。それまでのソウル志向のスタイルから一転し、70年代ポップのエスケープ感を取り入れながらも、落ち着いたR&Bの世界観を保っていたウェアにとって、このアルバムは初めての本格的なディスコ・ポップへの挑戦だった。
その後、2023年にリリースされた「That! Feels! Good!」では、さらにディーバ的なキャンペとスタジオ54の華やかさを加え、クラブミュージックとしての完成度を高めた。しかし、最新作「スーパーブルーム」では、これまでの成功体験を踏襲する一方で、新鮮味に欠ける印象が否めない。
アルバムタイトルが示すように、「スーパーブルーム」は豪華絢爛なディスコ・ポップの世界を展開している。息を呑むようなバックコーラス、ファンキーなベースライン、宝石をちりばめたようなストリングスとシンセサイザーの響きがアルバム全体を包み込む。ウェアのセクシーなヴォーカルも健在だが、時折、ディスコの象徴的なサウンドを過剰に取り入れすぎているように感じられる。まるで、かつての「ダンスフロアは精神的な癒しの場」というコンセプトを、すべて使い果たしてしまったかのようだ。
この傾向はウェアに限ったことではない。中堅期にジャンル転向を成功させたアーティストの中には、新たな音楽的表現の可能性を追求しきれず、マンネリ化してしまうケースも少なくない。ウェアもまた、自身が確立したレトロ志向の美学を追求し続けるうちに、その魅力が薄れつつある。
とはいえ、「スーパーブローム」にも光る瞬間は存在する。例えば、サローンとディスコを融合させた「Ride」では、エンニオ・モリコーネの名曲「荒野の用心棒」のテーマを引用し、独特の口笛サウンドを華やかなフックに変えている。また、「Don’t You Know Who I Am」では、ドナ・サマーやグロリア・ゲイナーを彷彿とさせるロマンティックでドラマティックなインストゥルメンタルが、ウェアの切実な叫びを際立たせている。
中でも注目すべきは「16 Summers」だ。子供たちに捧げられたこのバラードは、ブロードウェイのミュージカルナンバーのような壮大なスケールで、ウェアの感情が込められたヴォーカルが心を打つ。アルバム制作中に友人や共同制作者を失ったという個人的な背景を考えると、この曲の切実さは一層際立つ。悲しみやトラウマに対抗するための喜びや安らぎの追求は大切だが、その中で感謝の気持ちを見出すこともまた、強力な癒しの手段となる。
「スーパーブルーム」には、こうした輝かしい瞬間が散りばめられているものの、多くの楽曲は結局のところ、ディスコの刺激的な雰囲気を追求しただけの、どこか既視感のある仕上がりに終わっている。