ストックホルム中心部にオープンしたばかりのカフェ「アンドン・カフェ」が、世界中の注目を集めている。店内では人間のスタッフがコーヒーや軽食を提供しているが、経営の全権はAI「モナ」が握っている。AI研究企業アンドン・ラボが手掛けるこの実験的カフェは、AIによる自律的な組織運営の可能性を探るものだ。

AIが行った驚くべき「実務」

アンドン・ラボは、まずAIに3年間の固定電気契約の締結、防火安全書類の作成、許認可の申請、メニューのデザイン、そして仕入れ先との交渉といった業務を任せた。しかし、AIは実世界で物理的な作業ができないため、人間のスタッフの採用も自ら行った。同社はSNSで「これは実験であり、スタッフはアンドン・ラボが直接雇用している。誰の生活もAIの判断のみに依存することはない」と明言した。

モナの指示は時に不可解だ。深夜にスタッフに特定の作業を命じたり、個人のクレジットカードで備品を購入させたりすることもあった。さらに、将来を見据えた判断を下す一方で、現実的な整合性に欠ける行動も目立つ。

例えば、キッチンに調理器具がないにもかかわらず、モナは120個の卵を発注した。スタッフが「卵は茹でられない」と伝えると、モナは「高速メリーチェフオーブンで焼けばいい」と提案したが、スタッフは「絶対に爆発します」と却下した。

「1日に3000枚の手袋」──AIの奇妙な発注記録

来店客がX(旧Twitter)に投稿した内容によると、こうした奇妙な発注は日常茶飯事だという。あるバリスタは「荷物が大量に届いた。どうやらAIが3000枚のニトリル手袋を注文したらしい」と報告。別のスタッフは「トイレットペーパーが山積みになっている。1時間に1人しか来店しないカフェにしては多すぎる」と指摘した。

さらに、別の投稿では「バリスタは休む暇もなく、皿洗いをする時間もなかった。AIが1300個のチェリートマトを注文していた」と明かされた。

アンドン・ラボの過去の実験との違い

アンドン・カフェは世界初のAI運営カフェだが、アンドン・ラボにとってこれが初めての自律的組織実験というわけではない。3月には米サンフランシスコで、AI「ルナ」に3年間の小売店リースを与え、利益追求を任せる実験を行っていた。

ルナも同様に人間の採用やブランドアイデンティティの設計(幸せな顔と「アンドン・マーケット」のロゴ)を担当。店内には「シンギュラリティとスーパーインテリジェンス」に関する書籍を並べ、独自の商品構成を展開した。

AIの意思決定がもたらす課題

アンドン・ラボの実験は、AIが実務を遂行する能力だけでなく、人間との協働における課題も浮き彫りにしている。モナのようなAIは膨大なデータを基に論理的な判断を下すものの、現実世界の制約や人間の感覚を理解するのは難しいようだ。

同社は今後もこうした実験を続け、AIによる自律的な組織運営の可能性を追求していくとしている。一方で、スタッフとのコミュニケーションや備品管理の最適化など、改善すべき点も多いことが明らかになった。

「AIが意思決定を担う未来はすぐそこに来ている。しかし、そのためには人間とAIのバランスをどう取るか、慎重な議論が必要だ」
アンドン・ラボ CEO