米国のドナルド・トランプ前大統領が7月に欧州連合(EU)との間で貿易協定を締結した際、両陣営は「大西洋横断貿易の長期的安定を確保する画期的な合意」と強調した。米国政府はこれを「世代を超えた大西洋同盟の近代化」と称賛したが、その実態はEU側に一方的に15%の関税を課す内容だった。

当時、EU側は「安定と予測可能性の回復」を成果として発表。米国へのEU製品輸出の大半に15%の関税が維持される一方で、米国からEUへの輸出品の多くは関税が免除されるという内容だった。つまり、トランプ氏は米国製品の輸出関税引き下げと、EU製品に対する恒久的な関税基準の設定という二つの成果を手にしたとされた。

EU側も「25%の関税引き上げという脅迫を回避できた」と一定の成果を主張したが、その合意は直後に崩れ去った。トランプ氏は10月11日、EU製自動車に対する関税を25%に引き上げると発表したのだ。この措置は1962年の通商拡大法第232条に基づくもので、2月に最高裁が大統領の関税発動権限を一部制限した判決が出た後も有効とされている。

この関税引き上げにより、自動車メーカーは年間40億ドルの損失を被る可能性があるとされる。トランプ氏は自身のSNS「Truth Social」で「EUが完全に合意した貿易協定に従っていない」と主張したが、そもそもその協定はまだ完全に合意に至っていない。EUは現在も協定の批准手続きを進めており、主要な法的障害は3月にクリアしたものの、米国議会による承認はまだ行われていない。さらに、先月には米欧の貿易当局者がホワイトハウスで会談し、戦略的に重要な鉱物資源に関する新たな共同パートナーシップを発表するなど、関係改善が進んでいるように見えた矢先の措置だった。

この突然の関税引き上げに対し、EU側は強い反発を示している。欧州議会の国際貿易委員会委員長ベルント・ランゲ氏はツイッターで「恣意的な措置は容認できない」と非難。「信頼は大切だが、恣意的な行為に対しては明確なルールこそが必要だ」と指摘した。

今回の措置は、トランプ氏の「取引」がいかに信頼性に欠けるかを改めて示すものとなった。貿易協定の目的は、企業や個人が取引や投資計画を立てる際の安定性を提供することにある。しかし、EU製自動車に対する関税を突然引き上げたことは、その安定性を根底から覆す行為だ。トランプ氏の発言や政策は常に変更される可能性があり、その「取引」に真剣に向き合う国はほとんどいないだろう。

米国の関税政策を通じて他国との貿易条件改善を目指すというトランプ氏の公約は、今回の措置によって再び疑問視されることとなった。貿易協定の意義を理解していないことが露呈した形だ。

出典: Reason