フランス語と日本語が交錯するカンヌ映画祭の注目作となった、ハマグチ・リュウスケ監督の最新作「突然に」は、そのタイトルとは裏腹に、決して「突然」ではない。同作は第77回カンヌ映画祭のコンペティション部門で上映された作品の中で最長の3時間16分に及ぶ長編であり、ティアゴ・グエデス監督の「アキ」に次ぐ同映画祭2番目の長尺作品だ。

同作は、二人の女性の一晩にわたる対話を中心に展開される静謚なドラマであり、監督の代表作「浅子と彼女の彼女」「ドライブ・マイ・カー」に続く、人間味あふれる物語が展開される。観客には忍耐と没入が求められるが、その先に待つのは、まるで「王の帰還」のような多層的なエンディングと、豊かな対話の世界だ。

物語の中心となるのは、二人の奇妙な関係の女性たちだ。フランス人看護師のマリー=ルイ・フォンテーヌ(演:ヴァージニー・エフィラ)は、パリの老人ホームを経営しており、日本留学経験から日本語を話す。一方、日本人演劇監督で末期がん患者の森崎真理(演:岡本多緒)は、フランス留学経験からフランス語を話す。マリー=ルイは、人間らしいケアを重視する「ユマニチュード」と呼ばれる日本発の介護手法を導入しようとするが、従来の手法に慣れた看護師たちからは反発を受ける。彼女は自らも施設内の空きアパートに住み込み、緊急時には即座に対応できる体制を整えている。

ある日、マリー=ルイはパリのバスで激しく暴れる無言の少年・トモキを目にする。看護師としての本能が働き、彼女はバスを降りて少年の落ち着きを取り戻す手助けをする。そこに現れたのは、トモキの祖父ゴローと若い女性だった。彼らはパリで実験的な演劇「至近距離では誰もが普通」の上演に向かっていた。マリー=ルイはそのタイトルに思わず微笑み、演劇監督の森崎真理に会う機会を得る。

真理の招待で上演を観たマリー=ルイは、イタリアの精神病院閉鎖をテーマにした一人芝居に圧倒される。同作は観客を引き込む一方で、冗長とも取れる展開が続くが、ハマグチ監督はそれをあえて許容する。物語はトモキの祖父ゴローが演じるイタリアの精神病院閉鎖にまつわる演劇を軸に、二人の女性の交流と葛藤を静かに描き出す。その時間の流れは緩やかながら、観客を深い思索へと誘う。

出典: The Wrap