AIの進化は、製品の設計からユーザー体験までを根本から変えつつある。そんな中、テクノロジー大手サムスンは新たなデザイン理念を発表し、業界に衝撃を与えている。同社の社長兼最高デザイン責任者、Mauro Porcini氏は、ミラノデザイン週間の場で、技術の未来像について語った。
Porcini氏は、サムスンが「エンジニアリングの優位性」から「製品が与える感情的な価値」へと重点を移していると明かす。同社が直面するアップルとの競争についても率直に語り、技術力だけでなく「人間らしさ」を重視する理由を説明した。
「境界線のない世界」で生きるデザイン責任者の哲学
Porcini氏はイタリア出身のデザイナーで、アメリカのビジネス界で活躍する「アウトサイダー」的存在だ。2015年にサムスンに入社し、韓国企業として初の外国人社長に就任した経歴を持つ。同氏は、自身の経験を通じて「境界線のない世界」で生きることの重要性を説く。
「イタリア北部で南イタリア出身の両親のもとに生まれた私は、幼少期から二つの文化の間で揺れ動いていました。地元のコミュニティでは異質な存在と見なされ、南イタリアの休暇先でも同様でした。この『灰色の領域』で過ごした経験が、私のアイデンティティ形成に大きな影響を与えました」と語る。
デザイン業界では「あなたはビジネスマンだ」と言われ、ビジネス業界では「あなたはデザイナーだ」と言われる。Porcini氏は、こうした「ラベルのない状態」こそが、新しい価値を生み出す原動力だと強調する。
サムスンの新たなデザイン理念:「人間中心」の技術革新
サムスンの新しいデザイン理念は、技術が「人間の感情や経験」とどう結びつくかを重視している。Porcini氏は、同社の強みである「迅速な実行力」を活かしつつ、人間味のある製品作りを目指す。
「韓国の文化はトップダウン型で、迅速な意思決定と実行が得意です。この強みを活かし、技術と人間性のバランスを取ることが重要です。私たちの目指すのは、単に機能的な製品ではなく、人々の心に残る体験を提供することです」と同氏は語る。
また、アップルとの競争についても触れ、「技術力だけでなく、ユーザーにとっての『心地よさ』や『感動』を追求することが、差別化の鍵になる」と述べた。
若い世代へのメッセージ:独自のアイデンティティをデザインせよ
Porcini氏は、特に若い世代に向けて「自分自身のアイデンティティをデザインすることの大切さ」を説く。同氏は、自身の経験を通じて得た教訓を共有する。
「多くの人が特定のラベルや所属に縛られようとしますが、私はそうした枠組みから離れて、自分だけの道を切り開くことを勧めます。技術の進化とともに、人間性を取り戻すことが、これからの時代の成功のカギとなるでしょう」と語った。