「経済破壊」と叫ばれた気候変動対策

トランプ前大統領は気候変動対策に対し、常に「経済的な破滅を招く」との主張を繰り返した。パリ協定からの離脱後には、米国が「他国が支払わない数兆ドルのコストを負担している」と発言。また、ジョー・バイデン大統領の電気自動車普及計画についても「自動車産業を経済破壊に追い込む」と批判したが、後に自身の政策で「産業を救った」と主張した。

昨年には世界各国の指導者に対し、「この『グリーンスキャム』から抜けなければ、あなたの国は滅びる」と警告した。米国の環境規制撤廃の根拠も、常に「経済的負担」に置かれていた。しかし、その試算は気候変動の放置が招く甚大な被害を過小評価する傾向にあった。

記録的な熱波が露呈する気候変動のコスト

3月下旬、米西部では記録的な熱波が発生し、山火事のリスクを高めるとともに、地域の水供給を支える積雪を脅かした。気候変動の影響はすでに家計を直撃しており、ブルッキングス研究所の分析によると、気候変動による被害は、家庭ごとの年間負担額が平均219ドルから571ドルに上り、中には年間1,000ドルを超えるケースもあった。

コロンビア・ビジネス・スクールの気候経済学者ゲルノット・ワグナー氏は、「気候変動対策が経済全体に悪影響を与えるわけではない。むしろ、被害を受けるのは化石燃料業界だ」と指摘する。

化石燃料業界が仕掛けた「コスト過大視」の歴史

化石燃料業界は数十年にわたり、気候変動対策が「あまりに高コスト」とする物語を流布してきた。コロンビア大学のワグナー氏は、「これは偶然ではなく、意図的な戦略だ」と語る。

1990年代初頭、米国石油協会(API)は経済学者に委託し、温室効果ガス規制が経済に与える影響を「過大に」試算させた。1991年の業界資金による研究では、炭素税200ドル/トンを導入すると、2020年までに米国経済が1.7%縮小するとの試算が示されたが、気候変動の放置が招く被害は考慮されなかった。

この伝統は現在も続いており、トランプ政権下の環境保護庁(EPA)は、環境規制のコスト便益分析において、人間の生命を「価値なし」と扱う改定を行った。また、気候変動の経済的損害を示す「社会的炭素コスト」の算定も廃止され、バイデン政権が設定した190ドルという数値は無視された。

EPAの「生命の価値」ゼロという矛盾

従来、EPAは大気汚染規制の便益分析に際し、健康被害の回避(喘息発作や早期死亡の防止)を考慮していた。しかし、トランプ政権下でこの手法が見直され、人間の生命の価値を「ゼロ」と扱うようになった。これは、気候変動対策のコストを過大視し、規制緩和の正当化を図る意図があったとみられる。

気候変動の「見えないコスト」

気候変動の被害は、単に経済成長の鈍化だけではない。保険料の高騰、山火事煙による健康被害、農作物の収穫減少など、家計や企業に直接的な負担を強いる。ブルッキングス研究所の試算は、これらの被害が年間数百ドルから数千ドルに及ぶ可能性を示唆している。

「気候変動対策は経済全体に悪影響を与えるわけではない。むしろ、被害を受けるのは化石燃料業界だ」
— ゲルノット・ワグナー(コロンビア・ビジネス・スクール気候経済学者)

今後の展望:経済と環境のバランス

気候変動対策は、経済成長を阻害するどころか、長期的には新たな産業や雇用を創出する可能性がある。再生可能エネルギーや省エネ技術の発展は、将来的なコスト削減につながる。しかし、化石燃料業界の利益を優先した政策は、この転換を遅らせる要因となっている。

専門家らは、気候変動対策のコストと便益を正確に評価し、持続可能な経済成長を目指すことの重要性を訴えている。

出典: Grist