ロバート最高裁長官、裁判所の「政治化」を否定
米国の最高裁判所に対する国民の信頼が低下する中、ジョン・ロバート最高裁長官は9月18日、法律家向け会議で「裁判所が政策を決定しているとの批判は誤解」と発言した。NBCニュースのローレンス・ハーリー記者によると、ロバート長官は「人々は我々が政策を決めていると考えているが、実際は法律が定める通りに判断している」と述べた。
ロバート長官は「裁判所が政治的行為者だと見なされている」と指摘し、これは「正確な理解ではない」と主張。さらに「我々は政治プロセスの一部ではない。その理由を人々が十分に理解していない」と語った。
「政治」という言葉の誤解
ロバート長官の発言は、米国における「政治」という言葉の一般的な解釈に関わる問題を浮き彫りにした。米国では「政治」という言葉が否定的なニュアンスで使われることが多く、党派的な判断や偏見、腐敗といったイメージが付きまとう。
しかし、ロバート長官が「政治」と表現した「政治プロセス」とは、選挙や議員活動だけを指すのではない。社会の秩序を形成するあらゆる行為が「政治的」であり、例えば納税や消費行動、果ては選挙への不参加すら政治的行為といえる。ロバート長官が「政治」を「汚れたもの」と位置付ける一方で、裁判所をその対極に置く主張は、一部の法学者から「司法の自己肥大」と批判されている。
保守派判事の影響力拡大と改革の動き
ロバート長官の発言は、最高裁判所に対する国民の不信感が高まる中で行われた。世論調査では、米国民の最高裁判所に対する信頼度が過去数十年で最低水準にあることが明らかになっている。その背景には、保守派判事の影響力拡大に伴い、リベラル派に不利な判決が相次いでいることがある。
こうした状況を受け、民主党議員を中心に最高裁判所の規模拡大や管轄権の制限、判事の任期制限などの構造改革を求める声が強まっている。例えば、民主党の議員らは「最高裁判所の規模を拡大し、保守派の影響力を抑制すべきだ」と主張。また、判事の任期を18年に制限する法案も議会で検討されている。
「ロバート長官の発言は、裁判所が政治的中立を保っているとの主張だが、実際の判決は保守派の価値観に偏っているとの批判は根強い。国民の信頼回復には、透明性の向上や判決の説明責任が不可欠だ」
——憲法学者、マーク・トゥシェスキー教授
裁判所の「政治的中立」をめぐる議論
ロバート長官は、裁判所が「政治的プロセス」の外にあると主張したが、その見解は必ずしも広く支持されているわけではない。例えば、2022年の「ドブス対ジャクソン女性健康機構事件」では、中絶権をめぐる判決で保守派判事が多数を占め、リベラル派の立場を覆した。この判決は、民主党議員やリベラル派の活動家から「政治的判断」との批判を浴びた。
また、2023年には、最高裁判所が「 affirmative action(積極的差別是正措置)」をめぐる判決で大学の人種差別的入試基準を違憲としたことも、同様の批判を招いた。ロバート長官の主張とは裏腹に、裁判所の判決が「政策決定」と受け取られている実態が浮き彫りになった。
今後の展望:最高裁判所改革の行方
ロバート長官の発言は、最高裁判所に対する国民の不信感を払拭するには至らなかった。むしろ、裁判所の「政治的中立」をめぐる議論をさらに活発化させる結果となった。
民主党議員らは、最高裁判所の構造改革を通じて、保守派の影響力を抑制する方策を模索している。一方で、共和党議員や保守派の法曹関係者は、こうした改革を「司法への干渉」と批判。最高裁判所の独立性を守るべきだと主張している。
今後、最高裁判所の信頼回復には、判決の透明性向上や、判事の任命プロセスの見直しなどが求められるだろう。ロバート長官の発言が示すように、裁判所が「政治的プロセス」から離れているとの主張は、もはや多くの国民に受け入れられていない。