米国の中間選挙まで半年を切った2024年、下院議席の実質的な移動が静かに進行している。これは党内選挙や特別選挙ではなく、党派的な選挙区改定(ゲリマンダー)によって引き起こされている現象だ。

共和党は昨年からゲリマンダー戦略を本格化させ、テキサス州で5議席、ミズーリ州とノースカロライナ州でそれぞれ1議席を獲得。これに対し民主党も反撃に転じ、カリフォルニア州で5議席、バージニア州で4議席を奪還した。さらに今週、共和党はフロリダ州で4議席の奪取を目指す動きに出た。そして1月24日、最高裁判所が人種要因を考慮した選挙区割りの規則を見直す判決を下し、7州が今年の選挙に向けて選挙区を再編する可能性が浮上した。ルイジアナ州知事は同日、再編に踏み切る意向を表明したが、仮に数州のみが実施しても共和党に有利な結果となる公算が大きい。

この一連の動きは、政治家たちの理屈のすり替えぶりに象徴される。自党のゲリマンダーを正当化しながら、相手の手法を非難する「二重基準」が露骨に表れている。

ゲリマンダーの歴史的背景と新たな手法

ゲリマンダーは古くから続く選挙戦術だ。地図と有権者データを駆使して選挙区を再編し、対立候補の票を数区に「集中」させる一方で、自党の票を分散させて多数派を形成する。その結果、テキサス州第35選挙区やニューヨーク州第24選挙区、イリノイ州第13選挙区など、奇抜な形状の選挙区が生まれることもある。

2021年、ドナルド・トランプ前大統領は「選挙区改定は10年ごと」という従来の常識を覆す「中間期再編」という新たな手法を導入した。通常、議席配分は国勢調査後に行われるが、トランプは共和党が支配するテキサス州などに圧力をかけ、選挙区を再編させた。これに対抗して民主党もブルーステートで同様の動きを加速させた。

「勝利したから議席を獲得する権利がある」という理屈の矛盾

トランプがテキサス州で5議席の獲得を目指した背景には、共和党が州議会と知事を掌握していたことがあった。2024年の大統領選挙でトランプはテキサス州で56%の得票を獲得したが、当時の選挙区割りでは共和党が38議席中25議席(66%)を占めていた。新たなゲリマンダー後は、共和党が30議席(79%)を獲得すると見込まれている。

「我々はテキサスで5議席を獲得する機会を得た。テキサスで勝利したから、5議席は当然の報酬だ」
— ドナルド・トランプ(2023年8月、CNBCインタビューより)

この「勝利した州には議席を獲得する権利がある」という主張は、ゲリマンダーを正当化する典型的なレトリックだが、数字はそれを裏付けていない。56%の得票率が79%の議席獲得につながるという論理は、民主主義の原則と相反するものだ。

バージニア州が民主党主導で選挙区再編に踏み切った直後、共和党はフロリダ州でさらなる議席奪取を画策。最高裁の判決が追い風となり、今後数週間で複数州が選挙区の再編に動く可能性が高まっている。この「議席争奪戦」は、米国の選挙制度そのものを揺るがす深刻な問題となっている。