イリノイ州控訴裁判所は5月17日、10歳のホッケー選手とその家族が、試合中に激しい感情的反応を示す動画をYouTubeに投稿した匿名ユーザーに対し、動画の削除とユーザーの特定を求めた訴訟について、投稿者の行為は「故意の精神的苦痛」に該当しないとの判決を下した。

事件の概要

2023年11月、イリノイ州のユーザー「FunnyIllinoisHockey」が、州内のジュニアホッケーの試合で決勝ペナルティショットを外した10歳の選手ムファッレ氏が激しい感情的反応を示す様子を収めた動画「TI Tantrum」を投稿した。動画は2分44秒にわたり、選手が氷上で泣き叫び、スティックやグローブ、ヘルメットを投げ捨てる様子を追っていた。曲には「Tantrum」が使用されていた。

ムファッレ氏と家族は、動画が削除申請にもかかわらず再投稿され続け、地域のホッケー関係者に拡散されたと主張。選手は不眠や不安発作に悩まされ、家族も精神的苦痛を受けたと訴えた。さらに、動画がライバルチームの23歳のコーチによって投稿され、選手のチームからの引き抜きを目的としたものだと主張した。

裁判の経緯

ムファッレ氏らは、動画投稿者を特定し、名誉毀損、肖像権侵害、故意の精神的苦痛を理由に訴えるため、GoogleとYouTubeに対しユーザーの身元開示を求めた。しかし、第一審の巡回裁判所は、名誉毀損と肖像権侵害の請求を棄却。両親の精神的苦痛の請求も退けた一方で、選手本人の精神的苦痛の請求は認め、ユーザーの身元開示を命じた。

これに対し、控訴裁判所は第一審の判断を覆し、投稿者の行為は「故意の精神的苦痛」の要件を満たさないと結論付けた。裁判所は、故意の精神的苦痛を立証するには、①被告の行為が極めて非道徳的で常軌を逸していること、②被告が重大な精神的苦痛を与える意図があったか、その可能性が高いと認識していたこと、③被告の行為が実際に重大な精神的苦痛を引き起こしたことの3要件を満たす必要があるとした。

その上で、裁判所は「単なる侮辱や些細な迷惑、脅迫、些細な圧迫行為は、極めて非道徳的な行為とはみなされない」と指摘。動画投稿がこれらの基準を満たすほどの悪質な行為とは言えないと判断した。

今後の展望

今回の判決は、オンライン上のコンテンツが故意の精神的苦痛に該当するか否かの線引きを明確にするものとなった。裁判所は、単に不快な内容であっても、それが法的に保護される表現の範囲内であれば、精神的苦痛の責任を問うことはできないとの立場を示した。一方で、被害者側は動画の削除や投稿者の特定を求める手段を失うこととなった。

出典: Reason