背景:Kelp DAOからのETH盗難と凍結措置
2024年4月18日、北朝鮮系ハッカー集団「ラザルスグループ」がKelp DAOのLayerZeroブリッジから約11万6500ETH相当のrsETHを盗み出した。これを受け、Arbitrumのセキュリティカウンシルは4月21日、緊急権限(9-of-12の多数決)を発動し、攻撃者の鍵を保持していない状態で3万765ETHを移動させ、回収資金プールとして凍結した。
Aaveの主張:被害者への返還資金を保護
Aaveは4月24日の資金状況報告で、当初の損失額を16万3183ETHと算出。Kelp DAOの凍結措置、Arbitrumの回収、Aaveでの清算を経て、その52.9%を回収したと発表した。残額はDeFi Unitedによる3億ドル超の支援コミットメントで埋め合わせる計画で、マントルが最大3万ETHの信用供与枠を提供し、Aaveは財団から2万5000ETHの支援を要請していた。
法廷闘争への発展
5月1日、ニューヨーク南部地区裁判所が発行した差し押さえ命令により、凍結された3万765ETHが対象となった。原告側は、ラザルスグループによる攻撃と北朝鮮への制裁判決に基づき、盗難資産の差し押さえを主張。しかしAaveは、盗まれた資産が一時的に攻撃者の管理下にあったからといって、法的に差し押さえ可能な所有物になるわけではないと反論している。
Aaveの緊急申立て:凍結解除を求める理由
Aaveは5月4日、ニューヨーク州裁判所に対し、以下の2点を根拠に凍結解除を求める緊急申立てを提出した。
- 盗難資産の法的性質:攻撃者が一時的に保持していた事実だけで、資産が法的に差し押さえ可能な所有物になるわけではない。
- Arbitrum DAOの法的地位:Arbitrum DAOは法人格を持たないため、法的手続きの対象として不適格である。
法的リスクとガバナンスの課題
米国の裁判所はこれまで、DAOを一般的なパートナーシップや集合体とみなし、訴訟の対象とする判断を示してきた。Lido DAOやbZx、Compound関連の訴訟でも同様の扱いが確認されている。トラバース・スミスの分析によると、Arbitrumの緊急措置は文書化された権限行使に基づいており、その責任範囲はガバナンス構造と実質的なコントロールに依存する。
Arbitrumのフォーラムでは既に、ガバナンス関係者による補償や訴訟費用の負担、法的リスクに関する議論が行われていた。Aaveの申立ては、こうした懸念に対する法的対応の一環でもある。
今後の展望と課題
今後、裁判所はAaveの主張をどう判断するのか。また、Arbitrum DAOの法的地位や、他のDeFiプロトコルにおける緊急回復メカニズムの法的リスクも注目される。被害者への迅速な資金返還を実現するためには、法廷での議論と並行して、ガバナンス体制の強化が求められる。