人事部門の80%以上が女性であるという統計が示すものは、単なる労働市場の傾向ではない。そこには、無意識の偏見が潜んでいる。人事は「人」と「文化」を扱う部門とされ、感情的なケアが求められる一方で、コンプライアンスや解雇といった相反する責任も負わされる。この矛盾は、CHRO(最高人事責任者)にとって最も困難な役割の一つとなっている。

人を育む vs 企業を守る:二重拘束の実態

CHROは、社員の人間性を守り、悲しみや成長を受け止め、文化を形成する「感情のインフラ」として機能する一方で、社内調査や解雇、法的責任といった「コンプライアンスの盾」としての役割も担う。これは典型的な「二重拘束」であり、歴史的に低い報酬で評価されてきた。しかし、この二重拘束はCHROだけの問題ではない。組織内で真のコミュニティを形成しようとするリーダーであれば、誰もが同様のジレンマに直面する。

コミュニティが生む成果とリーダーシップの矛盾

研究により、職場のコミュニティがエンゲージメント、リテンション、パフォーマンスを向上させることが明らかになっている。しかし、多くのリーダーが学んできたリーダーシップ論は、効率性やスピード、規模拡大を重視し、コミュニティの形成を軽視する傾向にある。その結果、経営陣は「文化」について語りながら、実際には「スピード」を優先し、現場の社員が「ケアされていない」と感じる状況が生まれている。

「男性的クレンジング」が示唆する組織改革

この課題について、TEDx Sydneyをグローバルなコミュニティへと育て上げたFelicity Fellows氏との対談で、興味深い指摘があった。Fellows氏は、過酷な仕事と心の傷を癒すために「男性的クレンジング」と呼ぶ期間を設けたという。これは、男性を排除するのではなく、組織が「男性的」とされる価値観(効率性、競争、無感情)から離れ、よりバランスの取れたアプローチを取ることを意味する。

「男性的」と「女性的」の枠を超えて

「男性的クレンジング」という言葉は、組織が「男性的」な価値観に偏りすぎている現状を浮き彫りにする。ここでいう「男性的」や「女性的」は、性別に関わらず誰もが持つ心理的な特性を指す。問題は、職場が「男性的」な価値観に基づいて設計されており、その結果、コミュニティ形成に責任を持つ人々が公平な報酬を得られていないことだ。

仕事のシステムは、もともと「男性的」な価値観に基づいて設計されてきた。そのため、組織の文化を担う人々が、感情的なケアとコンプライアンスの両方を求められるという矛盾に直面する。この状況を打破するためには、リーダーシップのあり方そのものを見直す必要がある。