米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けた研究者による論文のうち、性差を分析または報告しているものは4割に満たないことが、新たな研究で明らかになった。この状況は、研究結果が男女にどのように適用されるかについての理解を困難にする可能性がある。

10年以上前、NIHは研究デザインにおける性差の包摂を促進するため、助成対象の研究において「性を生物学的変数(SABV)として考慮すること」を求めるガイドラインを導入した。このガイドラインは幅広く、研究者に対し、研究のデザイン、分析、報告の段階でSABVを考慮することを求めている。ただし、結果の解釈において必ずしも性差の存在を検証することを義務付けているわけではない。

研究の背景と課題

NIHのSABVガイドラインは、性差を考慮した研究の重要性を強調しているが、実際の論文ではその実施が進んでいない実態が浮き彫りになった。この研究は、過去10年間にNIHから助成を受けた研究論文100万件以上を分析し、性差の報告状況を調査したものだ。

その結果、性差の分析や報告が行われた論文は全体の42%にとどまり、残りの58%では性差が考慮されていないことが判明した。特に、基礎医学や生物学分野では性差の報告が少なく、臨床研究や公衆衛生分野と比較して顕著な差が見られた。

専門家の見解

「性差を考慮しない研究は、男女の健康格差を助長する可能性がある。例えば、薬の効果や副作用が性別により異なることが知られているが、そのような知見が研究から得られなければ、適切な医療提供が阻害される恐れがある」
— 米国立女性健康研究所(NWH)の研究者、ジェニファー・ジェームズ博士

今後の課題と対策

研究者らは、性差の報告を義務化することで状況を改善できると指摘する。例えば、論文投稿時に性差の分析有無を明記することや、研究デザインの段階で性差を考慮した計画を立てることが求められている。

また、NIHは2023年に、助成申請書に性差の考慮状況を記載することを義務付ける新たなガイドラインを発表したが、その効果が現れるまでには時間を要するとみられる。

主な課題

  • 性差の報告が少ない分野:基礎医学、生物学
  • 性差の報告が多い分野:臨床研究、公衆衛生
  • 研究者の認識不足:SABVの重要性が十分に浸透していない
  • ガイドラインの実効性:義務化されていないため、遵守率が低い

専門家の提言

性差の報告を促進するためには、以下の取り組みが必要だと専門家は指摘する。

  • 教育の強化:研究者や学生に対し、SABVの重要性と具体的な方法論を教育する。
  • 査読プロセスの見直し:論文査読時に性差の報告有無を評価基準に加える。
  • 助成審査の厳格化:NIHは助成審査の際に、性差の考慮状況を重視する。
  • データベースの整備:性差に関するデータを一元管理し、研究者がアクセスしやすくする。
出典: STAT News