先週、米国の経済評論家キャサリン・ランペル氏が司会を務める番組「レシート・ライブ」に出演した際、筆者はスピリット航空の破産について「残念なことだ」と述べた。従業員の失業は望ましくないからだ。しかし同時に、スピリット航空という企業そのものが消滅したことは、市場が「この企業のサービスの悪さを許容しない」と判断した証拠でもある。
スピリット航空のような企業が淘汰されることは、米国経済にとって希望の兆しと言える。なぜなら、これは「顧客を軽視する企業は市場から排除される」という原則が機能している証だからだ。
「エンシッティフィケーション」とは何か
この議論をさらに深めるため、今回は「エンシッティフィケーション」という概念について考えたい。これは、コリィ・ドクトロウ氏が提唱した理論で、巨大プラットフォームが顧客や取引相手から搾取を始め、サービスの質を低下させる現象を指す。
ドクトロウ氏は、かつて「顧客第一主義」を掲げていたアマゾンが、今では広告収入を優先する「広告の塊」と化した例を挙げる。例えば、アマゾンで「猫用ベッド」を検索すると、最初の画面はほぼ全て広告で埋め尽くされ、その中にはアマゾン自身が販売する犬用キャリーバッグの広告まで含まれる。有機的な検索結果が表示されるのは3画面目以降であり、それも「高評価」とラベル付けされた商品ばかりだ。
このような状況は、アマゾンが自社の小売プラットフォーム内に310億ドル規模の広告事業を構築した結果、顧客にとって最も有益な商品を提供するインセンティブから、広告収入を最大化するインセンティブへと変化したことを示す。
独占と寡占がもたらす構造的な問題
ドクトロウ氏によれば、アマゾンのような企業が「エンシッティフィケーション」に陥る主な理由は、独占的な地位と寡占的な力を同時に持つことにある。つまり、買い手と売り手の両方を支配することで、双方から搾取できる立場に立つのだ。
「プラットフォームが取引の両側を支配すると、インセンティブが変わる。顧客に最高の商品を提供するのではなく、ユーザーが耐えられる最低限の痛みの閾値を見つけることに注力するようになる」
この現象はテック業界だけにとどまらない。航空業界でも同様の構造的な問題が見られる。スピリット航空の破産は、過剰なコスト削減とサービスの質の低下がもたらした結果であり、顧客がその「痛みの閾値」を超えたことを示す。
エンシッティフィケーションの拡大とリベラルデモクラシーへの影響
ドクトロウ氏は、この「エンシッティフィケーション」が今後、テック業界だけでなく、社会全体に広がる可能性を指摘する。例えば、リベラルデモクラシーの基盤である「公正な競争」や「透明性」が、巨大プラットフォームの搾取的な行動によって脅かされる可能性がある。
今後、米国ではこのような構造的な問題にどう対処するかが、経済政策の重要なテーマとなるだろう。顧客や取引相手を軽視する企業が市場から排除される仕組みを再構築することが、持続可能な経済成長には不可欠だ。