米国の住宅市場では、ローン滞納の兆しが徐々に顕在化しつつある。滞納が最終的に差し押さえにつながるまでには数カ月を要し、その間に30日・60日の初期滞納から、90日・180日の深刻な滞納へと段階的に進行する。この初期段階の滞納率の動向は、将来の差し押さえ件数を予測する重要な指標となる。
現在、米国全体の初期滞納率(30日・60日)は2022年以降上昇傾向にあり、深刻な滞納(90日・180日)も同様の動きを見せている。これは、パンデミック下で実施された政府の保護措置(モラトリアムや猶予措置)が段階的に終了し、住宅市場が正常化に向かいつつあることを示している。
特に注目されるのが、FHA(連邦住宅局)ローンの滞納率の上昇だ。FHAローンは、初回購入者や低所得者向けのローンとして利用されることが多く、過去2年間で滞納率が顕著に増加している。ただし、FHAローンは全体の住宅ローン残高に占める割合が23.3%に過ぎず、米国の住宅ローン市場全体に与える影響は限定的だ。
パンデミック下の保護措置が解除され、滞納率が上昇
2020年のパンデミック発生直後、米国政府は経済的影響から住宅所有者を保護するため、全国的な差し押さえモラトリアムを実施した。さらに、猶予措置や金利引き下げなどの支援策が講じられた。同時に、パンデミック下の住宅需要急増により、住宅価格は過去最高値を記録し、多くの所有者が高い資産価値を享受した。その結果、差し押さえや滞納率は歴史的な低水準にまで低下した。
しかし、2021年以降、これらの保護措置が徐々に解除されるとともに、滞納率は再び上昇に転じた。特に2025年の第1四半期には、VA(退役軍人向けローン)のモラトリアムが終了したことで、滞納率の上昇が加速した。これにより、一時的に抑制されていた経済的ストレスが顕在化しつつある。
全体の滞納率は依然低水準、2008年時の半分以下
現在の米国の住宅ローン滞納率は、2008年の金融危機時と比較すると大幅に低い。2007年第4四半期には6.3%だった滞納率は、2009年第4四半期には11.5%まで上昇したが、現在は約2.9%にとどまっている。これはパンデミック下の歴史的な低水準(1.4%)を上回るものの、依然として深刻な危機レベルには程遠い。
また、滞納率の上昇が見られるエリアは、主に政府系ローン(FHA、USDA、VA)に集中している。これらのローンは全体の23.3%を占めるに過ぎないが、滞納率の上昇は今後の住宅市場の動向を占ううえで重要な要素となるだろう。
今後の見通しと注目ポイント
- FHAローンの動向:初回購入者や低所得者層に多く利用されるFHAローンの滞納率上昇は、経済的な格差が住宅市場に与える影響を示す指標となる。
- 政府支援策の終了:VAローンのモラトリアム終了を皮切りに、今後も他の政府系ローンの支援策が解除される見込み。これにより、滞納率のさらなる上昇が懸念される。
- 住宅価格の動向:住宅価格が下落に転じた場合、滞納率の上昇が加速する可能性がある。特に、資産価値が低下したエリアでは、差し押さえリスクが高まる。
「現在の滞納率は歴史的な低水準と比較すると依然低いが、政府系ローンの滞納率上昇は注視すべきポイントだ。経済的なストレスが顕在化しつつある中、今後の住宅市場の動向に注意が必要だ」
(リシクラブ分析)