米国のドナルド・トランプ大統領は5月16日、欧州連合(EU)からの自動車・トラックに対する関税を来週から25%に引き上げると発表した。世界経済が不安定な時期に打ち出されたこの措置は、EUとの貿易摩擦をさらに悪化させる可能性がある。

トランプ氏はソーシャルメディアで「EUは合意済みの貿易協定を順守していない」と主張したが、具体的な内容は明らかにしなかった。昨年7月にEUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長と合意した「ターンベリー協定」では、多くの品目に15%の関税上限が設定されていた。しかし今年、米国最高裁が当時の大統領権限を否定する判決を下し、関税徴収の法的根拠が失われた。このため、米政府は代替措置として10%の関税を暫定的に導入し、貿易不均衡や国家安全保障を理由にさらなる引き上げを模索していた。

この動きは、世界経済にさらなる打撃を与える可能性がある。2月下旬から米国とイスラエルによるイランへの攻撃が激化し、ホルムズ海峡の実質的な封鎖により原油・天然ガス価格が高騰。世界経済の成長鈍化とインフレ圧力が懸念される中での政策転換となった。

また、トランプ氏は昨年の大統領選挙で「新型コロナ対応後の物価高騰を迅速に収束させる」と公約したが、エネルギー価格の上昇により3月の米国の年間インフレ率は3.3%に達し、前任者から引き継いだ水準を上回った。AP通信とNORCセンターの最新世論調査によると、米国民のわずか30%しか経済運営に対するトランプ氏の手腕を評価していない。

ターンベリー協定の行方とEUの反応

米国とEUはこれまで「ターンベリー協定」の維持に合意していたが、最高裁の判決により協定の2025年までの有効性が揺らいでいる。米政府が検討する代替関税は、EUとの協定違反につながるリスクもある。しかし、先週行われた記者会見でEUの貿易・経済安全保障担当委員マロシュ・シェフチョビッチ氏は「過去1年間で米欧関係は改善した」と述べ、関係悪化に一定の歯止めをかけようとしている。

EU側はこの協定により、欧州自動車メーカーが月額5億~6億ユーロ(約585億~700億円)のコスト削減を見込んでいた。また、EU統計局ユーロスタットによると、2024年のEU・米国間の貿易額は1.7兆ユーロ(約2兆ドル)に上り、1日平均46億ユーロに相当する規模だ。

「協定は協定だ」
— 欧州委員会、2月の最高裁判決後

EUは米国の関税引き上げが協定違反に当たる可能性を指摘しており、今後の交渉次第ではさらなる貿易紛争に発展する恐れもある。米国の中間選挙を控え、トランプ氏の経済政策が与える影響に注目が集まる。