2023年11月、米国最高裁判所で行われた関税裁判の口頭弁論に出席した筆者は、その後、自身の見解を詳細にまとめた記事を発表した。しかし、最終的に筆者の予測は外れることとなった。当時、トランプ前大統領が最高裁で5票を獲得する可能性は低く、4票すら獲得できないと見ていた。その一方で、この裁判における弁護士の弁論手法について、改めて振り返る機会を得た。
特に注目を集めたのが、米国政府側の弁護団を率いたネアル・カトヤル弁護士のパフォーマンスだった。筆者はカトヤル弁護士の弁論について、以下のように評した。
「数名の判事はカトヤル弁護士の発言に対し、懐疑的な態度を示し、時には苛立ちすら感じていたようだ。彼の弁論は洗練されていたが、どこか型にはまった印象で、質問に対する的確な回答というよりも、事前に用意された回答を繰り返すだけのように見えた。また、カトヤル弁護士は議場の空気を読み違え、検事総長が退席した後であえて強気な態度を取ったように思われる。」
実際、カトヤル弁護士は複数の判事を苛立たせたとされ、その中にはゴーサッチ判事も含まれていた。ゴーサッチ判事は最終的に政府側の敗訴を決定づける判決を下したが、カトヤル弁護士に対し「あなたの質問に答えていないのではないか?」と厳しく指摘した。また、インド通商条項に関する質問に対し、カトヤル弁護士は「その点については明確な立場を持っていません。少し議論の範囲を逸脱しているように思います」と発言。筆者は「誰がゴーサッチ判事の役を務めたのだろうか?誰もインド通商条項についてカトヤル弁護士に伝えていなかったのか?」と疑問を呈した。実際、政府側の反論では検事総長がこの点を直接取り上げており、政府側は十分に準備していたことが明らかになった。
さらに、バレット判事からライセンスに関する質問を受けた際も、カトヤル弁護士は「もう一度おっしゃっていただけますか?」と聞き返す場面があった。その後、自身の主張を撤回せざるを得なくなり、バレット判事からは「そうですか」と皮肉交じりの返答を受けた。
こうした経緯を踏まえ、筆者はワシントン・ポストのコラムニスト、ジェイソン・ウィリック氏がマイケル・マコーネル弁護士にこの裁判の弁論を依頼すべきだと提言していたことを思い出した。ウィリック氏は、リベラル寄りの立場で知られるカトヤル弁護士よりも、保守的な立場のマコーネル弁護士を起用すべきだと主張していた。当時の筆者はこの提言に対し、半信半疑だったが、今振り返るとウィリック氏の意見は正しかったと考える。
マコーネル弁護士は、ロバートス最高裁長官と同期で clerk を務めた経験があり、ゴーサッチ判事とは第10巡回区控訴裁判所で共に仕事をしていた。また、バレット判事とは法学教授としての交流もあった。こうした経歴から、マコーネル弁護士はこの裁判を最も効果的に進めることができたのではないかと筆者は指摘する。
実際、アルイト判事はカトヤル弁護士の非委任理論に関する主張に対し、「あなたの憲法擁護者としての遺産が、非委任理論を復活させた男として語り継がれるのではないかと興味深く思います」と発言し、カトヤル弁護士を皮肉った。この発言に対し、周囲からは uncomfortable laughter(居心地の悪い笑い声)が漏れたという。また、カガン判事(カトヤル弁護士の元上司)でさえ、カトヤル弁護士の主張の一つが「彼自身に不利に働く」と発言するなど、カトヤル弁護士の弁論は必ずしも評価されなかった。
筆者は、カトヤル弁護士がこの裁判に適任だったとは思わないと結論付ける。仮に政府側が勝利を収めたとしても、その成功はカトヤル弁護士個人に帰せられるのではなく、政府の主張の強さによるものだと指摘する。