「招待したくない」と明言されたMAGAの影
2017年、米国の人気トーク番組「ザ・レイト・レイト・ショー」で、司会のジェームズ・コーデンが当時のヴォーグ編集長アンナ・ウィンターに「メットガラに二度と招待したくない人物は?」と尋ねた。ウィンターは即答で「ドナルド・トランプ」と答えた。会場は拍手喝采に包まれた。
トランプとその家族は、大統領就任前からメットガラの舞台に立っていない。しかしウィンターは、MAGA(Make America Great Again)を支持する有力者たちを、文化圧力の象徴であるメットガラのスポンサーに迎え入れることに何の躊躇も見せていない。
今年のメットガラを彩る「MAGA寄付者」
今年のメットガラでは、主要スポンサーと名誉共同議長を務めるジェフ・ベゾスとローレン・サンチェス夫妻が注目を集めている。二人はトランプの2度目の就任式にも参加していた。ウィンターはCNNの取材に対し、サンチェスの寄付に「感謝している」と述べ、彼女を「ファッションと衣装の大ファン」と評した。寄付額は非公開だが、夫妻のメットガラへの関与は明確だ。
ウィンターは「彼女はファッションと衣装の素晴らしい愛好家であり、私たちにとっても喜ばしい存在です」とコメント。しかし、その発言はファッション界と政治の接点が抱える矛盾を浮き彫りにしている。
「ブルジョワジーのショー」か、それとも文化支援か
メットガラは、10万ドル(約1,500万円)というチケット代が象徴するように、富の誇示の場と批判されることも多い。しかし、今年は世界第3位の富豪であるベゾスが、米国有数の美術館のファンドレイザーとして名を連ねるという皮肉な構図が浮かび上がっている。
ベゾスは、トランプ政権による文化攻撃の「傍観者」ではない。トランプは2025年1月の就任以来、全米芸術基金(NEA)の助成金を廃止し、数百の芸術団体を危機に陥れている。また、ミュージアムに対し「 woke 反対」を掲げる大統領令を発し、文化機関への圧力を強めている。さらに、ケネディ・センターの名称を自らの名前に改称するなど、文化の政治利用が顕著だ。
その一方で、ベゾスはトランプの2024年就任資金に100万ドル(約1億5,000万円)を寄付。さらに、メラニア・トランプの「バニティ・ドキュメンタリー」制作に7,500万ドル(約112億円)を投じた。また、ワシントン・ポストのオーナーであるベゾスは、同紙が2024年の大統領選でカマラ・ハリスを支持することを阻止したと批判されている。
「ファッションで文化を救えるのか」 — 抗議の声高まる
ニューヨーク市地下鉄には、今年のメットガラを「ベゾス・メットガラ」と呼び、「ベゾスのメットガラをボイコットせよ」と訴えるポスターが掲出された。Amazonの労働条件の悪さを批判する声も上がっている。
メットガラの歴史は、富と権力の象徴としての批判と常に隣り合わせだった。しかし、今年は単なる「富の誇示」を超え、テック業界と政治の癒着が浮き彫りになっている。Amazon、TikTok、Appleなどの巨大テック企業は、メットガラの主要スポンサーとして名を連ねてきたが、その裏でトランプ政権との関係を深めている。
ファッション界の「浄化」は可能か
ベゾスとサンチェスは、ミラノやパリのコレクションに出席し、ハイファッション業界との関係を築いてきた。しかし、その「ファッション愛好家」としての振る舞いが、彼らの政治的立場や文化圧力とどう折り合いをつけるのかは依然として疑問だ。
「どれだけランウェイに足を運び、どんなデザイナーの服を着ようとも、彼らは『クール』を手に入れることはできない」と、批評家は指摘する。メットガラの舞台裏で繰り広げられるのは、ファッションと政治のせめぎ合いであり、その矛盾は今後も議論の的となるだろう。
「ファッションは文化の鏡。しかし、その鏡が歪んでいるとしたら、私たちはどう向き合うべきか」
— 美術評論家、サラ・トンプソン