米国では選挙管理権限をめぐり、憲法上の重要原則「主要問題原則(Major Questions Doctrine)」が注目を集めている。これは、連邦政府機関が選挙に関する重大な政策決定を行う際、議会による明確な授権が必要とする憲法解釈の枠組みだ。
トランプ前大統領は2024年3月に発令した大統領令14399(EO 14399)を通じ、郵便投票資格者リストの管理を米郵便公社(USPS)に指示。これにより、州ごとの選挙管理システムを無視し、連邦政府が選挙プロセスを「全国統一化」する狙いがあったとされる。しかし、選挙法専門家のリチャード・バーンスタイン氏は、この動きが「主要問題原則」に抵触すると指摘する。
「主要問題原則」の法的根拠
同原則は2022年の「ウェストバージニア州対環境保護庁事件」判決で示された。連邦最高裁は「重大な政策決定は議会が自ら行うべきで、機関に委ねることはできない」との立場を明確にした。選挙は国家権力の根幹を左右する「重大問題」であり、そのルール策定権は憲法上、議会(特に州議会)に与えられている。
米憲法第1条第4節(Elections Clause)は、連邦選挙のルール策定権を「まず州議会に、議会による変更を条件に」与えている。これは、選挙を分散管理することで「選挙の公正性と透明性を確保する」という連邦制の設計思想に基づく。
大統領権限の膨張を阻む憲法的枠組み
バーンスタイン氏は、EO 14399が「憲法構造の根幹を揺るがす」と強調。大統領が選挙ルールを策定すれば、権力の分立原則と選挙の独立性が損なわれるだけでなく、選挙結果を通じた権力の正統性そのものが脅かされると指摘する。
同氏の主張を裏付けるように、選挙法の専門家グループ「法の支配社会(Society for the Rule of Law)」は、EO 14399の違憲性を主張する法廷助言書(アミカス・ブリーフ)を提出。同文書は、選挙に関する重大問題への機関介入は「憲法の分離権力原則と立法意図の実践的理解に反する」と結論付けている。
選挙の「分散管理」が公正性を担保する
米国の選挙制度は、州ごとに異なるルールを採用する「連邦制」に基づく。これにより、選挙不正のリスクが分散され、公正性が確保される仕組みだ。例えば、郵便投票の資格要件や投票方法は州ごとに定められており、連邦政府が一律に介入することは憲法上許されない。
「選挙は、誰が立法権や行政権を行使するかを決定する極めて重大なプロセス」とバーンスタイン氏は述べる。同氏は、選挙ルールの策定権を大統領に委ねることは、ジェームズ・マディソンが「連邦主義第51号」で説いた「人民への依存こそ政府統制の第一原則」に反すると警告する。
今後の司法判断に注目
EO 14399をめぐる訴訟は現在審理中。連邦裁判所が「主要問題原則」を適用し、大統領の選挙介入を憲法違反と判断する可能性が高まっている。この判決は、米国の選挙制度と権力分立原則の今後を左右する重要な司法判断となるだろう。