米国の選挙制度にとって重大な転換点となる判決が下された。最高裁判所は6月25日、ルイジアナ州の選挙区割りをめぐる訴訟「ルイジアナ州対カレー判決(Callais v. Louisiana)」で、投票権法(Voting Rights Act)の人種差別的区割り規制を事実上廃止する判断を示した。
この判決は、保守派のサミュエル・アリト裁判官が主導し、共和党系判事のみで構成された多数意見によって下された。アリト裁判官は、州議会が党派的利益を最大化するために選挙区を操作する権利を強く支持する立場を示した。
これまで投票権法は、人種的少数派が政治的代表権を確保できるよう、特定の選挙区で彼らが多数を占める選挙区を設けることを州に義務付けてきた。しかし今回の判決により、この規制が事実上機能しなくなった。アリト裁判官は、人種差別的動機があったことを立証しなければならないとする1980年の「モービル市対ボルデン判決」を事実上復活させた形だ。
投票権法の骨抜きに
1982年の投票権法改正では、人種的差別の「意図」ではなく「結果」に焦点を当てた規制が導入された。しかしアリト裁判官は、今回の判決で「強い推定」という曖昧な基準を持ち出し、実質的に1980年の基準に戻した。これにより、人種的少数派の選挙権が侵害されても、州が人種差別的意図を持っていたと立証することが極めて困難になった。
さらにアリト裁判官は、党派的区割り操作を「州の裁量権」の優先事項とし、投票権法の人種差別規制よりも上位に位置付けた。これは、白人有権者が共和党を支持し、非白人有権者が民主党を支持する「人種的分極化」が進む州で、共和党が選挙区を操作して少数派の政治的代表権を奪うことを事実上合法化する判断だ。
選挙区操作の激化が懸念される
専門家らは、今回の判決が今後の選挙制度に与える影響について警鐘を鳴らす。民主党系シンクタンク「ブルッキングス研究所」の選挙制度専門家は、「州議会は今後、党派的利益を最大化する選挙区割りを自由に行えるようになる。これは民主主義の根幹を揺るがす事態だ」と指摘する。
実際に、共和党が支配する州では、すでに選挙区の操作が進められている。テキサス州やジョージア州などでは、民主党支持層が多い都市部を細切れにして選挙区を分散させ、民主党の議席獲得を困難にする「ジェリマンダー(区割り操作)」が行われてきた。今回の判決により、こうした操作がさらに横行する可能性が高まった。
今後の展望と課題
民主党系議員らは、連邦議会で投票権法の再強化を目指す動きを見せているが、共和党が支配する議会下院での可決は困難とみられる。一方、市民団体は州レベルでの法整備や、選挙区割りの透明性向上を求める運動を展開している。
選挙制度の専門家は、「今回の判決は、米国の選挙が『誰が投票できるか』だけでなく、『誰が議席を獲得できるか』まで左右する重大な転換点だ」と指摘する。今後、州議会の選挙区割りをめぐる訴訟が増加することが予想され、司法の判断が注目される。