コカイン汚染がサケの行動に与える影響を初観測
スウェーデンの研究チームは、野生の大西洋サケにコカインとその主要代謝物であるベンゾイルエクゴニンを投与した実験で、通常のサケと比べて移動距離が大幅に増加するなどの行動変化を確認した。この研究は、自然環境下で行われた初めてのケースであり、Current Biology誌に発表された。
世界的なコカイン需要増加が水質汚染を悪化
世界中の水路には、人間が摂取した後に下水に排出される合法・違法薬物が含まれている。コカイン需要の急増に伴い、その主代謝物であるベンゾイルエクゴニンが湖や川に流入し、野生の魚類に吸収される可能性が指摘されていた。これまでの研究では、実験室環境下でコカインにさらされた水生生物の行動変化が報告されていたが、野生の魚類に与える影響は未解明だった。
実験の概要:2年間飼育したサケを3グループに分けて調査
研究チームは、スウェーデン南西部のヴェッテルン湖で実験を実施。2年間飼育した大西洋サケの稚魚(スモルト)105匹を3グループに分け、それぞれに以下の処置を行った。
- コカイン投与グループ:徐放性コカインインプラントを装着
- 代謝物投与グループ:徐放性ベンゾイルエクゴニンインプラントを装着
- 対照グループ:薬物を含まないダミーインプラントを装着
各グループのサケには追跡用のタグが装着され、2022年4月12日に湖に放流された。その後約2ヶ月にわたり移動パターンが観測された。
驚くべき結果:代謝物がコカインよりも強い影響を与える
実験の結果、コカインまたは代謝物にさらされたサケは、対照グループと比較して移動距離が大幅に増加した。特に代謝物投与グループは、対照グループの1.9倍の距離を移動したという。
「汚染物質への暴露がサケの行動に影響を与えることは予想していたが、その変化の規模には驚かされた。最も予想外だったのは、コカイン自体よりも代謝物の方が強い影響を与えたことだ」
マイケル・バートルアム(研究著者、スウェーデン農業科学大学准教授)
研究チームは、この結果が環境汚染物質が生態系に与える影響を理解する上で重要な示唆を与えるとしている。
環境汚染と生態系への影響を再考する必要性
今回の研究は、人間活動によって排出される薬物が自然環境に与える影響を明らかにした初めての事例の一つだ。研究者らは、今後さらなる調査が必要であると指摘しており、環境汚染物質の規制やモニタリングの重要性が再認識されている。