末期がん患者の介護に追われた医師の妻が、米国の救急医療の「闇」を告発した。亡くなる直前まで「病院には行かない」と繰り返した夫。自宅で最期を迎えるため、医師免許を持つ妻は自ら病院を再現し、専門医の協力を得て点滴や薬剤で症状を緩和していた。

しかし、24時間以上も救急部門のストレッチャーで放置される「エマージェンシーデパートメント・ボーディング」の実態は、患者と家族に計り知れない負担を強いていた。肺に水がたまり呼吸困難に陥り、激しい咳に苦しむ夫。それでも「病院には行かない」の一点張りだった。体力が衰え、骨と皮だけのような状態になっても、その意思は変わらなかった。

米国では、入院が必要な患者が救急部門で長時間待機する問題が深刻化している。正式に入院はしているものの、物理的には救急部門のストレッチャーやカーテンで仕切られたスペースに置かれ、適切なケアや安全基準が曖昧な状態が続く。2024年夏、がん治療中だった夫は突然錯乱状態に陥り、脳転移の有無を確認するため入院が必要となった。近くのニューヨーク市内の救急部門に搬送されたが、36時間以上も硬いストレッチャーに拘束されたまま、日夜の区別もつかない状態が続いた。その間、救急車のサイレンやコードブルーのアナウンスが飛び交い、数十人の患者や見舞い客と共有のトイレを使う有様だった。こうした環境が夫の精神状態をさらに悪化させた。

2日目の終わりには、かろうじて夫は妻を認識したが、「医師たちは敵で、自分は彼らの手先に過ぎない」と主張するようになった。妻が「上の病棟に移してほしい」と強く訴えた結果、5階上の病室に移動したが、その頃にはすでに手遅れだった。

救急部門滞在の実態:何が問題か

  • 物理的・精神的負担の増大:ストレッチャーやカーテンで仕切られたスペースでの長時間待機は、患者にとって過酷な環境。精神的ストレスや身体的苦痛が増幅される。
  • ケアの質の低下:正式に入院していても、救急部門のルール下では適切なケアが受けられない場合がある。安全基準や医療体制が曖昧なまま放置される。
  • 医療資源の非効率な活用:救急部門の混雑が慢性化し、本来の救急医療の機能が低下。患者の転院や入院手続きに時間がかかることで、他の緊急患者への対応にも支障をきたす。

この問題は、米国全土で深刻化しており、特に都市部の大規模病院で顕著だ。医療崩壊の一端を垣間見せる事態となっている。