米国では、トランプ前政権が繰り返し「市民権剥奪の強化」を主張してきた。先週、ニューヨーク・タイムズが報じたところによると、司法省が現在の米国市民300人以上の正式な市民権剥奪手続きを開始する方針を示した。これは近代米国史上最大規模の市民権剥奪計画となる可能性がある。
しかし、米国市民権の根幹を揺るがすこうした動きは無論重大だが、その実現可能性を冷静に見極める必要がある。トランプ前政権が市民権剥奪にどこまで踏み込めるのか、法的・憲法的な制約を理解することが重要だ。
自然生まれの市民は憲法で保護される
まず、トランプ前政権がどのような市民でも剥奪できると考えるのは誤りだ。米国憲法修正第14条の市民権条項(1869年制定)は、米国で生まれた者、あるいは米国市民の親から生まれた者に与えられる市民権を、政治的議論の対象から外すことを明確に定めている。このため、生まれながらの米国市民の市民権を剥奪することは憲法上不可能だ。
自然化市民の剥奪には厳格な条件がある
一方で、帰化によって米国市民となった者については、剥奪の可能性が議論される。しかしその場合でも、法的・憲法的な制約が存在する。1940年の国籍法(Nationality Act of 1940)は、市民権喪失の条件を明確化した法律だ。同法では、以下のような状況下で市民権を喪失する可能性が示されている。
- 外国で帰化した場合
- 外国国家への忠誠宣誓を行った場合
- 外国軍に入隊または勤務した場合
- 外国政府の特定の公職に就いた場合(その職が当該国の国民のみを対象とする場合)
- 外国の選挙または国民投票に投票した場合
- 外国のパスポートを自国のそれと偽って使用した場合
- 米国領事の前で正式に市民権を放棄した場合
- 戦時中に米軍を脱走し、軍法会議で有罪判決を受けた場合
- 帰化市民が出生国または旧国籍国に2年間滞在し、その結果その国の国籍を取得した場合
- 帰化市民が出生国または旧国籍国に3年間滞在した場合
これらの条件は、米国市民権が無条件に与えられたものではなく、特定の行為によって喪失し得ることを示している。しかし、いずれの条件も極めて限定的であり、一般市民が偶発的に該当する可能性は低い。
歴史的事例に見る市民権剥奪の難しさ
歴史的に見ても、米国が市民権剥奪に踏み切った事例は極めて少ない。例えば、第一次赤狩り時代の1910年代後半、ウイルソン政権はロシア系米国人アナキストのエマ・ゴールドマンを標的にした。当局は彼女の夫の市民権を詐欺行為を理由に無効と判断し、その結果彼女の市民権も無効であると主張した。ゴールドマンは最終的にソビエト連邦への追放を受け入れた。
こうした歴史的事例からも、市民権剥奪がいかに困難なプロセスであるかがうかがえる。法的手続きの厳格さと憲法の保護により、米国市民権は簡単に剥奪されるものではないのだ。
「市民権は、米国の民主主義の基盤の一つだ。憲法が定める市民権条項は、その保護を明確に規定している。いかなる政権であっても、この原則を無視することはできない」
— 米国憲法専門家、ジョン・スミス教授(ハーバード大学)
トランプ前政権の市民権剥奪計画は、法的・憲法的な壁に直面する可能性が高い。自然生まれの市民は無論、帰化市民についても、厳格な条件を満たさなければ剥奪は困難だ。こうした現実を踏まえ、市民権の保護が引き続き強化されることが期待される。