米国のミネソタ州とカナダの国境に広がる「バウンダリーウォーター・カヌー地域」(Boundary Waters Canoe Area Wilderness)は、100万エーカーを超える原生林と数千の湖沼・河川で構成される米国屈指の自然保護区だ。主にカヌーでアクセスされるこの地域は、生態系の宝庫として知られ、国内有数のアウトドア・レクリエーション地としても人気を集めている。
しかし、同地域の保護措置が共和党の手で揺らいでいる。上院共和党は5月22日、20年にわたる鉱業禁止措置を撤廃する決議を賛成50・反対49で可決した。採決に用いられたのは1990年代に制定された「議会審査法(Congressional Review Act, CRA)」と呼ばれる法令で、当時の下院議長ニュート・ギングリッチが政府の規制を迅速に撤廃する目的で導入した。通常、規制の撤廃には3分の2以上の賛成が必要だが、CRAでは単純過半数で可能となる。
CRAの拡大と環境規制の脆弱化
CRAは発足から20年間でわずか1度しか使用されなかったが、トランプ政権下で急速に拡大された。2017年にはオバマ政権下の規制17件がCRAで無効化され、2025年にはトランプ大統領が22件のCRA撤廃に署名した。今回のバウンダリーウォーターの保護措置は、2020年にバイデン政権が「公有地命令(Public Land Order)」として発令したもので、法的根拠が「極めて疑わしい」と専門家は指摘する。
「議会は単に賛成か反対かを示すだけ。通常であればフィリバスター(議事妨害)が適用される場面で、規制が迅速に撤廃される危険性がある」
— エリック・シュレンクラー=グッドリッチ氏(西部環境法センター代表)
先例なき法的リスクと保護地域の脅威
地球正義(Earthjustice)の上級立法担当官ブレイン・ミラー=マクフィー氏は、「今回の措置は法的にも前例がなく、多くの疑問が残る。闘いはまだ終わっていない」と警鐘を鳴らす。同決議が有効となれば、全ての土地管理決定が政治的攻撃にさらされる危険性があるという。
実際、ユタ州の共和党議員マイク・リーは既に、グランド・ステアケース・エスカランテ国定記念物の管理計画撤廃を目指すCRA決議を提案している。シュレンクラー=グッドリッチ氏は、「これらの場所を狙った攻撃は同時に、許認可改革の議論とも連動している」と指摘する。
環境政策の後退とエネルギー転換の阻害要因に
1970年に制定された「国家環境政策法(National Environmental Policy Act, NEPA)」は、大規模開発の環境影響評価を義務付ける法律だ。環境保護団体にとっては重要なツールだが、近年では太陽光・風力発電の導入や送電網の近代化を阻害する要因ともなっている。NEPA改革は超党派で支持されているが、CRAと組み合わされることで、保護地域がさらなる脅威にさらされる可能性があると専門家は懸念する。