南極クルーズ船「MV Hondius」が4月にアルゼンチン・ウシュアイアを出航し、147人の乗客・乗員を南極などの極地へ運ぶ予定だった。しかし、船内で発生した稀なウイルス感染により航海は中断され、3人が死亡、複数が感染した。

ハンタウイルスは齧歯類由来の古代の病原体で、1950年代の医療記録に登場する以前から人間に感染していたと考えられている。主な感染経路は、齧歯類の排泄物が含まれた埃を吸い込むことだ。今回の集団感染を引き起こした「アンデス型ハンタウイルス」は、人間から人間への感染が確認された唯一のハンタウイルスであり、COVID-19パンデミックの教訓からわずか数年後に国際的な緊急事態に発展した。

アンデス型ハンタウイルスは致死率が高い一方で、COVID-19ほどの感染力はないとされる。しかし、このアウトブレイクは、国際的な公衆衛生協力体制が分断・対立する中で、感染症対策の複雑さを浮き彫りにした。興味深いことに、アウトブレイク発生の1ヶ月前、アルゼンチンはWHOからの脱退を正式に完了していた。米国も同様に世界保健機関のグローバルヘルスアライアンスから離脱しており、国際的な感染症対策の枠組みが弱体化している。

気候変動が齧歯類の生息域を拡大させる

専門家によると、気候変動は降雨パターンや植生、生息環境を変化させ、齧歯類の個体数に影響を与えている。これにより、齧歯類が保有する病原体が人間社会に拡散するリスクが高まっているという。

今回のアウトブレイクの原因は、乗客の出身国のいずれかで感染した可能性もあるが、ウイルスの潜伏期間(1~6週間)を考慮すると、船が寄港したウシュアイア近郊のバードウォッチング遠征中に感染した可能性が指摘されている。同地域にはゴミ処分場があり、齧歯類が餌を求めて集まることで知られている。

アルゼンチン保健当局によると、2025年6月以降のハンタウイルス感染者数は101人に上り、前年同期の約2倍に達している。当局は感染拡大の原因を特定していないが、研究では気候変動が関与している可能性が示唆されている。

2021年から2024年にかけて、南米では記録的な干ばつと豪雨が相次いで発生した。特に2023年にはアルゼンチン史上最悪の干ばつに見舞われ、2024年には極端な降雨が続いた。バーバドス・カヴヒル大学の上級研究員であるカーク・ダグラス博士は、「気候変動による異常気象が齧歯類の行動を変化させている」と指摘する。長期にわたる干ばつは、ネズミやハツカネズミを食料を求めて都市部に追いやり、その結果、人間との接触機会が増加するという。

国際協力の必要性が再認識される

今回のアウトブレイクは、パンデミックのリスクが高まる中で、国際的な公衆衛生体制の重要性を改めて示した。専門家は、気候変動と感染症の関連性を踏まえ、予防策の強化と国際協力の再構築が急務であると訴えている。

「気候変動は感染症のリスクを増大させるだけでなく、国際的な対応力を低下させる要因にもなっている。今後、より一層の協力体制の強化が求められる」
— カーク・ダグラス博士(バーバドス・カヴヒル大学)

出典: Grist