米コネチカット州ウォーターバリー病院で2022年に死亡したロバート・ドーンさんの遺族、パメラ・ドーンさんは、プロスペクト・メディカルが医療過誤保険の準備を怠っていたと主張する。同社は2025年1月に破産申請したが、医療過誤に対する補償資金を一切確保していなかったことが裁判記録で判明した。
プロスペクト・メディカルは、民間投資会社による買収と経営陣の不正により経営破綻に追い込まれた私的医療法人チェーンだ。カリフォルニア州発の小規模企業だった同社は、17の病院を6州に展開する規模に拡大したが、その間に医療の質の低下、院内感染の蔓延、不衛生な施設などが相次いで指摘された。さらに、1億3500万ドル以上の税金を滞納し、医療機器やサービスの支払いも滞った。ペンシルベニア州の4つの公的医療機関を閉鎖し、数千人の従業員を解雇した。
医療過誤保険の不備が明るみに
プロスペクト・メディカルは、傘下の病院や医師に対する医療過誤保険の提供を約束していたが、実際には保険料の積み立てを行っていなかった。このため、現在進行中の医療過誤訴訟を抱える患者や遺族は、補償を受けることが事実上不可能な状況に置かれている。
パメラ・ドーンさんのケースもその一つだ。彼女は2024年に同社を相手取り訴訟を起こしたが、現在も係争中で、同社に責任を追及する機会すら奪われつつある。ロバートさんは2022年3月、認知症が進行し液体食を摂っていたが、病院のスタッフが暴れたと判断し、鎮静剤を投与。その後、マカロニとチーズ、ブロッコリーの食事を与えられたまま放置された。スタッフが気づいた時には、ロバートさんは窒息し呼吸困難に陥っていた。気管挿管され集中治療室に搬送されたが、意識を回復することなく死去した。死亡診断書には「気道閉塞による窒息」と記載された。
「誰か他の人に同じ目に遭ってほしくなかったから訴えたの。病院が医療過誤保険を持っていないなんて、信じられない。責任感がなさすぎるわ」
パメラ・ドーンさん
プロスペクト・メディカルの弁護士と救急医は、訴状で過失の主張を否定している。
「自己保険」の落とし穴
プロスペクト・メディカルは、医療過誤保険の代わりに「自己保険」を採用していた。これは、商業保険会社に保険料を支払う代わりに、自社で医療過誤の法的防御費用や和解金、判決金を支払う仕組みだ。しかし、同社はこの仕組みを維持するための資金を確保していなかった。米国では医療業界でこの手法が広まりつつあるが、財務基盤のない企業が自己保険を採用すると、患者への補償が事実上不可能になるリスクが生じる。
専門家は、プロスペクト・メディカルのケースが、自己保険のリスクを浮き彫りにしたと指摘する。同社の破産手続きが進む中、患者や遺族の補償は宙に浮いた状態だ。