米メリーランド州控訴裁判所は10月10日、トランスジェンダーの親が子どもの性別アイデンティティに関する最終決定権を持つことは合法であるとする判決を下した。同裁判所は、子の最善の利益を最優先に考慮すべきであり、親の性別や性自認に基づく差別的な扱いは認められないとの立場を示した。
事件の概要
同判決は、ターン v. アベル=キーザー事件(2023年10月10日)に関するもので、控訴審を担当したのは、判事のダグラス・ナザリアン氏、グレゴリー・ウェルズ首席判事、グレン・ハレル判事の3名による合議体であった。
同事件は、未成年の子Zの親権をめぐる争いに端を発する。原告のアッシュリー・スミス・ターン(AST)はシスジェンダーの親、被告のブレア・アベル=キーザー(BAK)はトランスジェンダーの親である。両者はZをもうける前に結婚していたが、2022年6月に離婚が成立していた。
第一審の家庭裁判所は、Zに対し共同身体的親権を認め、さらに共同法的親権を与えた上で、特定の条件下でBAKに最終決定権(タイブレーキング・オーソリティ)を付与する判断を下した。BAKは、Zが性別アイデンティティの探求を始めた際に、そのサポートを行ってきた親であった。
控訴審の争点と判断
ASTは、第一審の判断に対し、以下の点を不服として控訴した。
- Zが性別アイデンティティの探求を始めたこと
- BAKがトランスジェンダーであること
- BAKがZの性別アイデンティティの探求をサポートしてきたこと
ASTは、これらの要因を踏まえ、第一審が法的親権の構造を不当に定めたとして、裁量権の乱用を主張した。特に、性別アイデンティティに関する決定権をBAKのタイブレーカーから除外すべきだとの主張を行った。
しかし、控訴審はこれを退け、以下の理由を示した。
「いかなる子の親権事件においても、最も重要な考慮事項は子の最善の利益である。」
同裁判所は、法的親権が「教育、健康、その他子の生活と福祉に関わる重要事項に関する長期的な決定権」を意味すると説明。その上で、性別アイデンティティに関する決定権を法的親権の構造から切り離すことは、裁量権の乱用には当たらないと結論付けた。
証拠と判断の根拠
第一審の裁判所は、AST、BAK、BAKの現在の配偶者、ASTの現在の配偶者、および家庭裁判所の評価者の証言を聴取した。また、家庭裁判所の評価者による報告書を含む各種書類が証拠として提出された。
ASTは控訴審において、主に評価者の報告書に依拠したが、第一審の裁判所は、その報告書に与える重みを自由に判断する権限を有していた。報告書の結論は一方的なものではなく、第一審の判断を覆すほどのものではなかった。
評価者の報告書は、BAKがZの性別アイデンティティの探求をASTよりも早く進めさせようとした可能性を示唆する一方で、ASTが新しい配偶者をZの生活に早く統合しようとしたことも批判していた。第一審の裁判所は、こうした複雑さと流動性を考慮し、親が協力して子に必要な決定を行う機会とインセンティブを維持する親権計画を策定した。
さらに、評価者は複数のセラピスト(Zの治療にあたるセラピストを含む)からの聞き取りを行った。評価者は、「あらゆる証言によれば、Zは自らの意思で性別アイデンティティの探求を始めた」と指摘した。
法的意義と今後の影響
同判決は、トランスジェンダーの親が子の性別アイデンティティに関する決定に関与することの重要性を認めた点で、画期的なものと言える。同裁判所は、親の性別や性自認に基づく差別的な扱いを明確に否定し、子の最善の利益を最優先に考慮すべきであるとの立場を示した。
専門家らは、同判決が今後の親権事件において、トランスジェンダーの親の権利を守る重要な先例となる可能性があると指摘している。