米連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長は、ドナルド・トランプ前大統領の指名により同職に就任した共和党系の委員長だ。カー氏は、ABCの人気トーク番組「ザ・ビュー」が政治的偏向を理由に、放送免許の規制対象となる可能性があると示唆している。

カー氏は特に、番組が「公平時間(Equal Time)」ルールの適用対象となる可能性を指摘。このルールは、公職候補者に放送時間を与えた場合、他の全候補者にも同等の時間を提供することを義務付けるものだ。しかしABCは、このルール適用の脅迫は憲法修正第1条の表現の自由を侵害すると反論している。

ABCは1月12日、FCCに対し正式な異議申し立てを行った。同社を代表するのは、ジョージ・W・ブッシュ政権時代の米司法長官補佐官を務めたポール・クレメント氏。クレメント氏は、公平時間ルール自体が「表現の自由に関わる深刻な懸念を引き起こす」と指摘し、FCCが長年維持してきたトーク番組の免除を撤回することは、さらなる憲法問題を招くと主張している。

公平時間ルールの歴史的背景と例外

公平時間ルールは、1934年の通信法第315条に基づく。このルールでは、放送局が公職候補者に放送時間を提供した場合、他の全候補者にも同等の機会を与えなければならない。しかし、このルールの厳格な適用は、ニュース報道に大きな支障をきたす可能性があると指摘されてきた。

そのため、1959年に議会は「真正なニュース免除」を同条に追加。具体的には、以下のケースが免除対象とされている。

  • 「真正なニュース番組」:選挙報道など、候補者が主要な話題ではない番組
  • 「真正なニュースインタビュー」:候補者へのインタビューが番組の主目的ではない場合
  • 「真正なニュースドキュメンタリー」:候補者の出演が他の主題の補足的なものである場合
  • 「真正なニュースイベントの現場中継」:政治大会などの生中継

FCCは1984年以降、フィル・ドナヒューのトーク番組を皮切りに、多くのトーク番組に対し同様の免除を適用してきた。対象には、ジェラルド・リベラ、サリー・ジェシー・ラファエル、ボブ・コスタスの番組、ジェリー・スプリンガーショー、ハワード・スターンのラジオ番組、そして「ザ・ビュー」などが含まれる。

2002年には、FCCが「ザ・ビュー」を免除対象に加えた。これは、番組が定期的に放送され、プロデューサー主導で制作され、ニュース価値に基づく判断が行われているためだ。

カー委員長の主張とABCの反論

カー氏は1月にX(旧Twitter)で、「長年にわたり、テレビネットワークは、党派的な政治目的であっても、深夜や昼のトーク番組を『真正なニュース』とみなしてきた。今日、FCCは放送局に対し、全候補者に等しい機会を提供する義務を再確認した」と述べた。

しかし、ABCはこの見解を否定。同社の弁護団は、カー氏の主張が憲法修正第1条の表現の自由を侵害するだけでなく、FCCの長年の運用方針を覆すものだと指摘している。ABCは、カー氏の発言が「放送メディアの編集判断の自由」を脅かすと強調している。

「公平時間ルールの適用は、ニュース報道の現場に混乱を招くだけでなく、メディアの独立性を損なう恐れがあります。ABCは、このような恣意的なルール適用に断固反対します」とABCの広報担当者は述べた。

今後の展開と憲法上の課題

FCCは現在、カー氏の主張を受け、公平時間ルールの適用に関するガイドラインの見直しを進めている。しかし、憲法学者やメディア関係者の間では、この動きが表現の自由を侵害する可能性があるとの懸念が広がっている。

「公平時間ルールは、もともと選挙キャンペーン中の公平性を確保するために導入されたものです。しかし、その適用がニュース報道の自由を制限する形で拡大されることは、民主主義の根幹を揺るがす行為です」と、憲法問題の専門家であるロバート・リチャードソン教授は指摘する。

ABCの異議申し立てがFCCでどのように扱われるか、今後の動向が注目される。

出典: Reason