テキサス州ダラス市は、2024年の市憲章改正をめぐり、州司法長官ケン・パクストンから訴訟を起こされた。パクストン氏は、ダラス市当局が警察予算の不十分な資金調達と、新たに最大900人の警察官を採用するという有権者承認の措置を履行していないと主張。声明で「市民が警察への資金増額を求めた際、当局は直ちにこれに従うべきだ」と述べた。
このような措置が可能になった背景には、テキサス州ヒューストンの弁護士であり、サウステキサスの小さな町フォン・オーミーの市長でもあるアート・マルティネス・デ・バラの存在があった。彼のウェブサイトには「州歴史家」「人類学者」「弁護士」と記載されているが、実際には20年以上にわたり、テキサス州保守派の間で「小さな政府」の立案者として名を馳せてきた。
フォン・オーミーは人口わずか1,100人の町だが、マルティネス・デ・バラはこの規模の自治体で「自由都市」と呼ばれる、政府機能を最小限に抑え、税金や規制をほぼ排除したコミュニティ形成を推進してきた。テキサス州は元来「小さな政府」を標榜する州だが、こうした実験は大規模なムーブメントにはならなかった。そこで近年、マルティネス・デ・バラらは戦略を転換。都市が独自の予算配分や政策決定を行う権限を制限する方向にシフトした。
その象徴的な例がダラス市だ。2022年、マルティネス・デ・バラは共和党の大口寄付者でダラス在住のホテル経営者モンティ・ベネット氏が支援する非営利団体「ダラスHERO」の弁護士として、同団体に参加。市の予算の大部分を警察官採用に充てることを義務付ける住民投票案を起草し、ロビー活動を行った。さらに、市の政策に反対する者からの訴訟リスクを高めるため、市の訴訟免除権を剥奪する法案も策定した。
ダラスHEROはこれらの措置が市の安全性向上と責任体制の強化につながると主張したが、市の選挙で選ばれた当局者のほとんどはこれに反対した。しかし、マルティネス・デ・バラの影響力はそれだけにとどまらない。彼の手法は州内の他の都市にも波及しつつあり、地方自治のあり方をめぐる議論を巻き起こしている。
フォン・オーミーの「小さな政府」モデル
フォン・オーミーは、テキサス州の「自由都市」の先駆け的存在だ。同町では、税金がほとんど徴収されず、規制も最小限に抑えられている。マルティネス・デ・バラは、こうしたモデルを他の自治体にも広げようと活動を続けている。彼の主張は単純だ。「政府は小さく、市民の負担は軽く、自由は最大化されるべきだ」というものだ。
しかし、こうしたモデルが機能するのは、規模が小さく、コミュニティの結束が強い町に限られる。大都市には適用が難しく、実際にダラス市のようなケースでは、市民の間で意見が分かれている。
ダラス市をめぐる論争の行方
ダラス市は、警察官採用義務化の履行に向け、すでに350人の新規採用を開始したが、残りの650人に関する具体的な計画は示されていない。また、訴訟免除権の剥奪により、市の政策に反対する団体や個人からの訴訟リスクが高まっている。
マルティネス・デ・バラの手法は、地方自治のあり方をめぐる議論を加速させている。一方で、彼の支持者は「市民の声を反映した改革」と称賛するが、反対派は「地方自治の侵害」と批判している。今後、テキサス州内で同様の動きが広がるのか、注目が集まっている。
「政府は市民の負託に応え、その権限を行使すべきだ。しかし、そのために市民の自由を奪うようなことがあってはならない」
— ダラス市のある議員のコメント