「時間が足りない」という現実との闘い

2010年初頭、ドラゴンエイジIIの開発チームには、わずか1年強の猶予しか残されていなかった。しかし、リードライターのデイビッド・ゲイダーは、ライター陣に対してさらに厳しい挑戦を突きつけた。彼らに求められたのは、ゲームのストーリー全てをわずか数ヶ月で執筆することだった。ダイアローグ、インタラクティブな会話、カットシーン、コーデックスの記述——その全てが、ライター陣の手で生み出される必要があったのだ。

「ライターたちは、全ての作業の源だった」とゲイダーはビデオチャットで語った。「彼らが作ったものは、他の全ての部門の作業を生み出していた」と。ライター陣が作成した各セリフや会話、カットシーン、コーデックスの文章は、その後にアニメーション、録音、翻訳といった工程を経て、実際のゲームに組み込まれる。つまり、ライター陣の作業は他部門の「ボトルネック」となり、そのスケジュールは他のチームよりも前倒しで進める必要があったのだ。

「ベストを尽くせ」:ゲイダーの厳しい指示

ゲイダーはまず、ライター陣とのミーティングを開き、ゲームのコンセプトだけでなく、厳しい締め切りとその制約について理解を促した。そして、こう伝えたという。

「我々に与えられた時間は限られている。通常であれば、全ての作業に十分な時間を割けるが、今はそうはいかない。君たち一人一人が、自らのベストを尽くし、自分で解決策を見つけなければならない」

しかし、ゲイダーは続けた。「そして、彼らはそれをやり遂げた。全員が最高のパフォーマンスを発揮してくれた」と。

わずか5人のライター陣:その実力と経験

ドラゴンエイジIIのライター陣は、わずか5人という小規模なチームだった。その中でも最もベテランだったのが、ルーカス・クリスチャンソンだ。彼は1996年のバルダーズ・ゲート開発時に、BioWare初のフルタイムライターとして採用された。彼の長年の功績から、「Writer Zero」や「Old Man Luke」といった愛称で呼ばれ、バルダーズ・ゲートのバーバリアン・ミンスク(ペットのハムスター「ブー」と共に登場する)など、ファンに愛されるキャラクターを数多く生み出した。その後、ドラゴンエイジシリーズではオリジンズやDLC「リリアナの歌」の執筆を担当した。

ジェニファー・ヘプラーは、ロサンゼルスでゲームモジュールのライターをしていたが、夫と共にBioWareエドモントンへの転職を決意し、寒い北国へと移住した。彼女はドラゴンエイジライター陣に加わった初の女性であり、その執筆スピードの速さでチーム内で頭角を現した。オリジンズではドワーフの設定や「ドワーフ平民」のオリジンストーリーの多くを手掛け、ドラゴンエイジIIではシニアライターとして、クエストの管理やプロジェクトの進行も担った。

シェリル・チーはシンガポール出身で、幼い頃からBioWareのファンだった。大学時代には自主的にモデラーとして活動し、ゲームをより深く理解するためにゲーム制作の勉強を始めた。BioWareでライターの募集がかかった際、彼女はモッド(改造データ)を提出し、それがきっかけで面接、そして採用へとつながった。

限られた時間が生んだ傑作

厳しいスケジュールと小規模なチームという逆境の中、彼らは見事にドラゴンエイジIIのストーリーを完成させた。その裏には、ゲイダーのリーダーシップと、ライター陣一人一人の並外れた努力があった。結果として生まれた作品は、シリーズファンのみならず、広く評価される傑作となったのだ。

出典: Aftermath