米国では、テクノロジー企業が提供するサービスを通じて膨大な個人情報が第三者に共有される時代となった。こうした中、警察が「ジオフェンス令状」と呼ばれる手法を用いて、特定の場所にいた人物を特定する捜査手法が注目を集めている。この手法は、第四修正条項(不合理な捜索・押収の禁止)に抵触する可能性があるとして、最高裁判所がその是非を審議している。

ジオフェンス令状とは

2016年に米バージニア州ミッドロージアンで発生した銀行強盗事件の捜査では、警察がGoogleに対し、同社の「位置履歴」機能を利用した5億人以上の位置データの検索を要請した。その結果、強盗当時に銀行周辺にいた19台の端末が特定され、最終的に容疑者としてオケロ・チャトリー容疑者が逮捕・起訴された。

この「ジオフェンス令状」と呼ばれる手法は、捜査の効率化につながる一方で、個人のプライバシーを侵害する可能性があるとの指摘がなされている。ジョージア州の弁護士で、チャトリー容疑者の弁護団に加わるアダム・ウニコウスキー氏は、最高裁に提出した書面で「この手法の悪用の可能性は計り知れない」と警鐘を鳴らす。

第四修正条項と第三者理論の矛盾

1967年の最高裁判決「カッツ対米国事件」では、第四修正条項の保護対象は「合理的なプライバシー期待」がある場合に限られるとされた。その後の判例では、銀行口座や電話記録など、第三者に自発的に提供された情報については、プライバシーの期待が認められないとの「第三者理論」が確立された。

しかし、この理論は現代のテクノロジー社会では矛盾を孕んでいる。例えば、2018年に連邦捜査局(FBI)が携帯電話基地局からの位置データを用いて容疑者を特定した事件では、多数意見が原則として令状を必要とする一方で、第三者理論との整合性が疑問視された。チャトリー容疑者の事件も同様の構造を持ち、警察は令状を取得したが、その令状が第四修正条項の「相当な理由」と「特定性」の要件を満たしていないとの指摘がある。

政府の主張と弁護団の反論

米司法省は、ジオフェンス令状が第四修正条項に抵触しないと主張する。その根拠は、位置履歴の提供に同意したユーザーは、その情報がプライバシーとして保護される合理的な期待を有していないという「第三者理論」に基づくものだ。しかし、ウニコウスキー氏は、この理論が拡大解釈されれば、政府が遠隔で保存されたメール、写真、カレンダー、文書に自由にアクセスできるようになると警告する。

最高裁の審議では、複数の陪席判事がこの主張に懸念を示した。政府側の代理人エリック・フェイジン氏は、政府の主張がそのような拡大解釈に及ばないと説明したが、第三者理論の枠組み自体が位置情報のようなセンシティブなデータにも適用される可能性があることが問題視されている。

位置情報のプライバシー侵害リスク

位置データは、単に現在地を示すだけでなく、個人の生活習慣、宗教的信条、医療情報、交友関係など、極めてプライベートな情報を明らかにする可能性がある。例えば、特定の病院や教会、政治集会の場所に頻繁に出入りすることで、その人物の健康状態や思想信条が推測される。こうした情報が政府や捜査機関に無断で収集・利用されることは、市民の基本的な自由を脅かすものだ。

ウニコウスキー氏は、最高裁に提出した書面で「ジオフェンス令状は、個人のプライバシーを侵害するだけでなく、政府による恣意的な監視を可能にする」と指摘する。この手法が認められれば、将来的にはより広範な個人データの収集・分析が行われる可能性があり、市民の自由が大きく制限される恐れがある。

今後の最高裁の判断に注目

最高裁は、ジオフェンス令状の合憲性について、来年以降に判決を下すと見られている。この判決は、現代のテクノロジー社会におけるプライバシー権の在り方を大きく左右するものとなるだろう。特に、第三者理論の見直しが求められる可能性があり、個人がテクノロジー企業に提供するデータの取り扱いについて、新たな法的枠組みが構築されることが期待される。

一方で、捜査機関にとってジオフェンス令状は、犯罪捜査の有効な手段となることも事実だ。今後の判決が、プライバシー保護と捜査の効率化のバランスをどのように図るのか、注目が集まる。

出典: Reason