ニューヨーク・タイムズ紙は2025年6月、2016年2月に行われたバラク・オバマ大統領の「クリーンエア計画」を巡る最高裁判所の5日間にわたる審議について、同裁判所の「影の法廷(シャドウ・ドケット)」の現代的な始まりと位置づけた内部文書を公表した。
同紙の報道を受け、法学者のスティーブン・ヴラデック氏は、2016年2月9日の決定が「現代の緊急法廷の誕生」を告げるものだったと主張した。また、ジャック・ゴールドスミス氏も同様の見解を示し、2016年の命令が「大統領の政策に対する最高裁の積極的関与の始まり」と評価した。
しかし、ステファニー・バークレー氏(SCOTUSblog寄稿者)は、これらの主張がいずれも間違いであると指摘する。彼女は、2016年のクリーンエア計画を巡る審議よりも2年以上前の2013年、当時のソニア・ソトマイヨール判事による単独の緊急差止命令が、現代の「緊急法廷」の起源だったと主張する。
2013年のリトルシスターズ事件が示す歴史的事実
バークレー氏が最初に挙げる事例は、2013年12月31日にソトマイヨール判事が下した命令だ。これは、いわゆる「避妊 mandate(contraception mandate)」と呼ばれる大統領令に対し、リトルシスターズ・オブ・ザ・プア(貧しい人々の小さな姉妹たち)が申請した緊急差止命令を認めたものである。
当時、連邦地裁はリトルシスターズの差止申請を却下していたが、第10巡回区控訴裁判所は2013年12月31日に上訴中の緊急差止命令を却下した。これにより、連邦政府は翌2014年1月1日午前0時をもって避妊 mandateの執行を開始する予定だった。
同日夜、第10巡回区の巡回裁判官であったソトマイヨール判事は、リトルシスターズからの緊急申請を受理。彼女はその夜のうちに命令を発出し、連邦政府に対し避妊 mandateの執行を差し止めた。この命令はわずか1段落の短いもので、実体審理や口頭弁論、説明なしに行われたものだった。
当時、ニューヨーク・タイムズ紙の社説はこの命令を「不可解」と批判し、ソトマイヨール判事が「大胆な」判断を下したと指摘した。同社説によれば、連邦地裁も控訴裁判所も「差止命令は不要」と判断していたにもかかわらず、ソトマイヨール判事は異なる判断を下したのである。
最高裁が追認したソトマイヨール判事の判断
その後、2014年1月に最高裁は、記録上の反対意見なく、ソトマイヨール判事の命令を拡大する決定を下した。これにより、リトルシスターズの控訴審中に、同様の宗教団体数百団体に対しても差止命令が適用されることとなった。
バークレー氏は、この2013年の出来事こそが、ニューヨーク・タイムズ紙が2016年の出来事に対して適用した基準から見ても、現代の「緊急法廷」の起源に相当すると主張する。ソトマイヨール判事の判断は、その後の最高裁の判断に大きな影響を与え、現代のシャドウ・ドケットの基盤となったのである。
まとめ
- ニューヨーク・タイムズ紙は2016年のクリーンエア計画を巡る審議を「現代の緊急法廷の始まり」と位置づけた。
- しかし、ステファニー・バークレー氏は、その起源は2013年のリトルシスターズ事件にあると指摘する。
- ソトマイヨール判事による単独の緊急差止命令が、その後の最高裁の判断に影響を与えた。
- 最高裁は2014年1月にソトマイヨール判事の命令を追認し、同様の団体への差止命令を拡大した。