米最高裁判所が5月1日に下した投票権法(Voting Rights Act)に関する新たな判決は、米国における人種差別の実態を覆い隠す「嘘」を暴くものだ。同判決により、アラバマ州やルイジアナ州をはじめとする州で、黒人議員の議席削減を目的とした選挙区改定が加速している。
この問題について、公民権運動の理論的支柱の一人であるキンバリー・クレンサウ氏(UCLA・コロンビア大学法学教授)が、米誌「ニュー・リパブリック」の番組「Right Now With Perry Bacon」に出演し、その深刻な影響を語った。
投票権法の「至宝」が骨抜きにされる現実
クレンサウ氏は、投票権法が「公民権運動の至宝」と呼ばれる理由を説明する。同法は、結果に焦点を当てた数少ない法律の一つであり、歴史的に投票権を奪われてきたアフリカ系アメリカ人の代表性を確保するための「結果重視型」のアプローチを採用していた。
「投票権法は、住宅政策における差別と同様の構造的な問題に対処してきました」と語るクレンサウ氏。例えば、住宅ローンの差別的な融資やレッドライニング(特定地域への融資拒否)など、結果として人種隔離を生み出す政策は、差別の構造的な証拠と見なされてきた。投票権法も同様に、差別的な選挙制度が結果として黒人の政治的代表性を奪う構造を是正する役割を果たしてきた。
「私たちは今、投票権法がどれほど重要だったかを忘れかけています。黒人議員の存在が当たり前になっている今、その背後にある膨大な闘いと制度の重要性が見えにくくなっています」とクレンサウ氏は指摘する。
最高裁の「意図的な破壊」が続く
しかし、最高裁はここ20年にわたり、投票権法をはじめとする公民権関連の法律を「意図的に破壊」してきた。特に2013年の「シェルビー郡対ホルダー事件」判決以降、同法の執行力は大幅に弱体化。今回の判決は、その流れをさらに加速させるものだ。
クレンサウ氏は、「最高裁の判決は残念ながら予想通りでした。同法が骨抜きにされる過程を20年以上にわたり見てきました」と述べ、同法の歴史的意義と現在の危機的状況を強調した。
州レベルで進む「選挙区改定」の実態
判決を受け、アラバマ州やルイジアナ州などの州議会では、黒人議員の議席削減を目指した選挙区改定が検討されている。これは、投票権法の執行力低下がもたらす「直接的な結果」の一つだ。
「州レベルで、黒人の政治的発言力を奪う動きが加速しています。これは、公民権運動の成果を逆行させる行為であり、米国の民主主義の根幹を揺るがすものです」とクレンサウ氏は警鐘を鳴らす。
構造的差別の「見えない」実態
クレンサウ氏は、構造的差別の問題が「見えにくくなっている」現状を指摘する。例えば、選挙区の「ジェリーメンディング(不当な選挙区割り)」は、一見中立な政策に見えるが、結果として特定の人種の政治的影響力を奪う構造的な差別の一形態だ。
「私たちは、差別が明確な暴力や差別的発言だけでなく、制度や政策によっても引き起こされることを理解する必要があります。投票権法の制限は、まさにその典型例です」と語る。
「投票権法は、米国の民主主義を支える基盤の一つでした。その基盤が崩れつつある今、私たちはその危機を直視し、声を上げ続ける必要があります。」
— キンバリー・クレンサウ氏
同番組では、クレンサウ氏の新著に関する話題や、彼女の公民権運動への貢献についても触れられたが、今回の判決を巡る議論が中心となった。今後、州レベルでの選挙区改定が進む中、米国の民主主義の未来に対する懸念が高まっている。