米マサチューセッツ州ボストン — 遺伝子治療の重篤な副作用リスクを軽減する目的で広く使用される薬剤が、逆に治療効果を低下させる可能性があるとの研究結果が発表された。
米国の医療系メディアSTATが報じたところによると、この研究は、ドラベ症候群と呼ばれる重度の遺伝性てんかんを対象とした臨床試験で明らかになったものだ。ドラベ症候群は、乳幼児期に発症する難治性のてんかんで、知的障害や運動障害を伴うこともある。
遺伝子治療の課題:免疫反応のリスク
遺伝子治療では、新しい遺伝子を脳に届けるために、遺伝子を運ぶ「ベクター」としてエンジニアリングされたウイルスが使用される。しかし、このウイルスに対する免疫反応が患者に生じる可能性があり、治療効果の低下や重篤な副作用を引き起こすリスクが指摘されてきた。
今回の臨床試験を主導したのは、米カリフォルニア州サンフランシスコに拠点を置くバイオテックスタートアップ、エンコーデッド・セラピューティクス(Encoded Therapeutics)だ。同社は、ドラベ症候群患者21人を対象とした第1相臨床試験を実施。このうち大半の患者には、免疫抑制剤として一般的に使用されるステロイドが投与された。
免疫抑制剤の併用が治療効果に影響
さらに、高用量群に属する患者の多くは、免疫抑制剤の一種である「シロリムス(商品名:ラパマイシン)」も併用された。シロリムスは、もともと臓器移植後の拒絶反応を防ぐために使用される薬剤だが、今回の試験では、この薬剤が遺伝子治療の効果を低下させる可能性が示唆された。
研究チームは、シロリムスが免疫反応を抑制する一方で、遺伝子治療の効果を発揮するために必要な免疫応答まで抑制してしまう可能性があると指摘している。具体的には、シロリムスがウイルスベクターに対する免疫反応を過剰に抑制し、その結果、治療効果が低下するというメカニズムが考えられる。
今後の治療戦略に与える影響
この研究結果は、遺伝子治療の安全性と有効性のバランスをいかに取るかという課題を浮き彫りにした。特に、ドラベ症候群のような難治性疾患においては、治療効果を最大化するための新たなアプローチが求められる。
エンコーデッド・セラピューティクスの関係者は、「今回の知見は、遺伝子治療の臨床現場における意思決定に重要な示唆を与えるものだ」と述べ、今後の治療戦略の見直しが必要になる可能性を示唆した。