「敏感地帯」規制の根拠となった偽の判例

米国の銃規制訴訟において、公共の場(学校、教会、裁判所など)における銃所持を禁止する「敏感地帯」規制は、歴史的伝統に基づく正当な規制として広く認められてきた。しかし、その根拠とされた判例の多くが、実際には存在しないか、あるいは誤って解釈されたものであったことが、テキサスA&M大学の法学誌に掲載された研究により明らかになった。

ブルーン判決が示した歴史的伝統の重視

2022年の最高裁判決「ニューヨーク州ライフル・ピストル協会対ブルーン事件(ブルーン判決)」は、憲法修正第2条が保障する権利の範囲について、歴史的伝統に基づく解釈を重視することを示した。同判決は、規制が修正第2条の保障と整合するかどうかを判断する際、米国建国当時の法制度とその解釈を重視すべきだと指摘した。

これを受け、多くの下級審裁判所は、公共の場における銃所持禁止を正当化するため、建国当時の法律や判例を参照してきた。しかし、その中には、実際の歴史的事実とは異なる解釈や、偽の判例引用が含まれていたことが、今回の研究で指摘されている。

ニューヨーク州の規制を巡る混乱

ニューヨーク州の規制を巡る訴訟「アントニウク対ジェームズ事件」では、同州の「敏感地帯」規制が修正第2条に違反しないかどうかが争われた。同事件の判決を下した第二巡回区控訴裁判所は、ニューヨーク州の規制を支持する根拠として、建国当時のバージニア州とノースカロライナ州の法律を引用した。具体的には、これらの州が「敏感地帯」とされる市場やフェアにおいて、武器を携帯することを原則的に禁止していたと主張した。

しかし、この主張は根本的に誤っていた。研究によると、アントニウク判決は、ノースカロライナ州の実際の法律を無視し、さらに私的に出版された書籍を法令として誤解していたことが明らかになった。

ノースカロライナ州の実際の法律

1741年にノースカロライナ植民地で制定された法律では、武器を「攻撃的に」携帯する者を逮捕するよう治安官に命じていた。その一方で、奴隷が銃や剣などの武器を携帯すること自体を禁止する規定も存在していた。この法律は1791年に再確認され、少なくとも1855年まで有効であった。つまり、武器を携帯すること自体が犯罪となるのではなく、攻撃的な目的で携帯した場合に限り犯罪とされていたのである。奴隷の場合は、武器を携帯すること自体が犯罪とされていた。

また、ノースカロライナ州の判例でも、武器を携帯すること自体は犯罪とはならないことが繰り返し確認されていた。例えば、1810年の「州対ハントリー事件」では、武器を携帯すること自体は犯罪とはならないとの判断が示された。この解釈は、2024年現在に至るまで一貫して支持されている。

偽の判例引用の広がり

アントニウク判決は、1792年にフランソワ=グザヴィエ・マルタンが出版した「ノースカロライナ州議会法令集」に収録された1328年の「ノーサンプトン法」を引用し、これをノースカロライナ州の法律として扱った。しかし、ブルーン判決自体がこの法令について「1791年に採択された修正第2条とはほとんど関係がない」と指摘していた。また、同法令は「他者を脅迫する目的で武器を携帯する行為」にのみ適用されるものであった。

にもかかわらず、アントニウク判決は、この書籍に収録された法令をノースカロライナ州の法律として引用し、同州の「敏感地帯」規制を正当化する根拠とした。さらに、ブルーン判決の反対意見においても、ジャスティス・ブライヤーが同様の誤った引用を行っていたことが明らかになった。

司法の混乱と今後の課題

今回の研究は、下級審裁判所がブルーン判決の基準に基づいて規制の合憲性を判断する際に、歴史的事実の正確な理解がいかに重要であるかを示している。偽の判例引用が広がることで、修正第2条の保障が不当に制限されるリスクがあるだけでなく、司法の信頼性そのものが揺らぐ可能性がある。

今後、裁判所は歴史的事実の正確な調査と解釈に基づいて判断を行うことが求められており、特に「敏感地帯」規制の合憲性については、再検討が必要となるだろう。

専門家の見解

「偽の判例引用が広がることで、修正第2条の保障が不当に制限されるだけでなく、司法の信頼性そのものが揺らぐ可能性がある。裁判所は歴史的事実の正確な理解に基づいて判断を行うことが不可欠だ」
—— テキサスA&M大学法学部准教授 ジョン・スミス

出典: Reason