米食品医薬品局(FDA)が進行性メラノーマ(悪性黒色腫)の新規免疫療法薬「RP1」の承認を拒否したことで、末期患者と医師の間に frustration(失望と不満)が広がっている。FDAは先月、有効性の証拠不足と試験デザインの問題を理由に「完全回答書(complete response letter)」を発行し、承認を却下した。

しかし、がん専門医や研究者らはこれに反発。RP1の臨床試験で示された一定の有効性を示すデータを軽視したと批判し、標準治療の選択肢を使い果たした患者にとって、この決定は「最後の希望を奪われるか否か」の重大な分岐点になると指摘する。

こうした状況は、2018年に制定された「治療選択の権利法(Right to Try Act)」の理念との乖離を浮き彫りにしている。同法は、末期患者が正式承認を待たずに実験的治療を受けられるようにすることを目的としたものだが、現実には「紙の上の権利」にとどまっているのが実情だ。

「治療選択の権利法」の理想と現実のギャップ

2018年、当時のトランプ大統領は同法に署名し、末期患者に「基本的な自由」と「希望」を与える政策だと強調した。しかし、8年が経過した今、その実績は宣伝ほどには及んでいない。

FDAによると、2018年から2022年までの5年間で、同法を利用したケースはわずか12件にとどまった。その後も年間数件程度にとどまっており、実質的には「許可証」に過ぎない状況が続いている。

その理由の一つが、製薬企業や医療機関に参加の義務がないことだ。同法は、企業や医師、病院に対して治療提供を強制するものではない。そのため、多くのケースで企業側が治療提供を拒否しているのが現状だ。

なぜ企業は治療を提供しないのか?

  • コスト負担の問題:実験的治療の提供には多額の費用がかかるため、企業が負担を嫌うケースが多い。
  • 法的責任のリスク:副作用が発生した場合、治験の承認プロセスに悪影響を及ぼす可能性があるため、企業は慎重な姿勢を取る。
  • 医療機関の判断:医師や病院も同様のリスクを負うため、参加を拒否するケースが少なくない。

2019年には、ALS患者が同法を利用して治療を受けられなかったケースが報じられた。これは同法の限界を象徴する事例となった。同法は「権利」を保障するものの、その実現には他者の協力が不可欠であり、現行制度ではそれが担保されていないのだ。

RP1承認拒否が示す制度的課題

進行性メラノーマ患者の多くは、標準治療を使い果たし、最後の選択肢を模索している。彼らは不確実性を受け入れ、わずかな可能性にかける覚悟がある。しかし、現行のシステムは、患者のリスク許容度よりも、企業や規制当局の判断を優先する構造となっている。

RP1のケースは、この制度的課題を如実に示している。患者にとっては「最後の希望」かもしれない治療が、規制当局の判断一つで閉ざされる現実。同法が掲げた理念とは裏腹に、現実の壁は依然として厚い。

「治療選択の権利法」は、患者に希望を与えるための法律だった。しかし、現実には企業や医療機関の協力なしには機能しない。制度の抜本的な見直しが求められている。

出典: Reason